反省してよ
いつもより早く帰れた金曜日の夜にすることといえば、ひたすら自分を甘やかすこと、それだけだ。お風呂にのんびり浸かって、髪を乾かすのは面倒だからせず、よれて肌に馴染んだスウェットと短パンに包まれて食べきれないのは承知のうえでピザなんかを頼んじゃう。ごろごろとスマホをいじりながら時間を潰していると、思いのほか早くにチャイムが鳴った。
「はぁーい!」
一瞬、せめて上にパーカーを羽織ったりするくらいはしたほうがいいか、とは思ったのだけれど、結局ピザの誘惑に負けてそのままの格好でドアスコープも確認せずドアを開けてしまった。敗因は以上である。
「………………間違えました」
ドアを開けた先にいたのは、待ちかねていたピザ(の宅配員)ではなく、今一番来てほしくなかった最愛の恋人、泉くんだった。静かにドアを閉め直そうとする。……が、足を間に挟まれドアをこじ開けられてしまった。
「間違えましたァ? よ〜くわかってんじゃん、確かに今のアンタは全部頭のてっぺんから爪先まで間違えまくってるよねぇ! こら、閉めようとすんなッ」
「ごめんなさいごめんなさいっ違うのホントにこれは違うんです私あのそのっ」
泉くんは玄関に押し入ると、ドアの鍵を普段使わないチェーンまでしっかり閉めて綺麗な靴を揃えて脱いだ。私はこのまま奥に彼を入れてしまうと食べかけの――それもほとんど残りのない――スナック菓子が見つかってしまうので、どうにか誤魔化す方法を考えていた。
「泉くん! 聞いて!」
「言い訳なら聞かない」
「あぁ……えっ……と言い訳じゃなくて! 違うの、あの……これは…………」
しかしそんな機転の利いたことは当然ながら思いつかず、泉くんは呆れつつもずんずんリビングへ入ってしまう。そして案の定テーブルの上のスナック菓子を見て、鬼の形相で私を振り返った。
「……そこ座って」
「あ、ハイ……すみません……」
一周回って静かな彼の声に、もはや何の抵抗もできずに床へ正座した。
彼は溢れる怒りを何とかため息とともに体外へ吐き出したが、もちろんそんなことでは収まらず、呆れと怒りの入り交じった声でお説教を開始した。
「俺が一番怒ってるのは、アンタがバカみたいにカロリーの高いお菓子を貪ってたことじゃないんだよ。女の子のひとり暮らしなんだから、ドア開けるときはちゃんと相手を確認してから開けろって俺アンタに散々言ったよねぇ?」
「えっ、あ、はあ」
「はあ!?」
「いえ! おっしゃる通りです、言われました、すみません!」
てっきり体型や摂取カロリーについてコッテリ絞られるのだと思っていたので、間抜けな相槌をうってしまった。が、すぐに背筋を正す。
「あとドア開けるにしても、薄着すぎ! 短パンと薄手のスウェットだけって……ありえないでしょ、そんな姿俺以外の男にも平気で見せてるわけ?」
「えぇと……いや、うん、ハイ、すみません……」
「すみませんじゃなくて。ほんっと危機管理出来てないよねぇ、だからひとり暮らしなんてやめとけって言ってんのに……」
泉くんは頭を抱えて、ずいと私に近づいた。至近距離で目と目を合わせ、まるで犬への躾のように凛とした声でハキハキと喋る。
「ドアを開ける前にドアスコープで相手を確認する。最初は確認してもチェーンかけたままで開けても良いくらい。あと薄着で出ない。これだけは守って」
「は、はい……」
「声が小さい!」
「はいっ!!」
ふん、と少しだけ満足そうに息を吐いて、泉くんはソファに腰を下ろした。隣のスペースを叩かれ、恐る恐る移動し隣へ腰を下ろす。
「アンタのそんな姿見られるのは俺だけじゃないの? ……これ以上心配かけるならここに住むからねぇ」
「えっ」
私が思わず明るい声を出してしまうと、泉くんはちょっと驚いたようにこちらを見た。しまった、と口に手を当てる私を見て、彼はクスッと微笑む。
「なぁに、一緒に住みたいわけ? そうなるとこんなクソみたいな暴飲暴食は見逃してあげないけど?」
「ぐ……バレないようにするよ、あいや、我慢します……。お菓子より泉くんが居てくれた方が良いな〜、なんて……」
「バッカみたい」
泉くんはそう言って私の額を小突いた。少し焦りはしたけれど、何とかいつもの恋人らしい雰囲気を取り戻せたようだ。……と、私が安堵して微笑んだところで、ピザの到着を告げるチャイムの音が鳴り響いたのだった。そのあとの泉くんの激怒の具合は、もはや言うまでもない。
「はぁーい!」
一瞬、せめて上にパーカーを羽織ったりするくらいはしたほうがいいか、とは思ったのだけれど、結局ピザの誘惑に負けてそのままの格好でドアスコープも確認せずドアを開けてしまった。敗因は以上である。
「………………間違えました」
ドアを開けた先にいたのは、待ちかねていたピザ(の宅配員)ではなく、今一番来てほしくなかった最愛の恋人、泉くんだった。静かにドアを閉め直そうとする。……が、足を間に挟まれドアをこじ開けられてしまった。
「間違えましたァ? よ〜くわかってんじゃん、確かに今のアンタは全部頭のてっぺんから爪先まで間違えまくってるよねぇ! こら、閉めようとすんなッ」
「ごめんなさいごめんなさいっ違うのホントにこれは違うんです私あのそのっ」
泉くんは玄関に押し入ると、ドアの鍵を普段使わないチェーンまでしっかり閉めて綺麗な靴を揃えて脱いだ。私はこのまま奥に彼を入れてしまうと食べかけの――それもほとんど残りのない――スナック菓子が見つかってしまうので、どうにか誤魔化す方法を考えていた。
「泉くん! 聞いて!」
「言い訳なら聞かない」
「あぁ……えっ……と言い訳じゃなくて! 違うの、あの……これは…………」
しかしそんな機転の利いたことは当然ながら思いつかず、泉くんは呆れつつもずんずんリビングへ入ってしまう。そして案の定テーブルの上のスナック菓子を見て、鬼の形相で私を振り返った。
「……そこ座って」
「あ、ハイ……すみません……」
一周回って静かな彼の声に、もはや何の抵抗もできずに床へ正座した。
彼は溢れる怒りを何とかため息とともに体外へ吐き出したが、もちろんそんなことでは収まらず、呆れと怒りの入り交じった声でお説教を開始した。
「俺が一番怒ってるのは、アンタがバカみたいにカロリーの高いお菓子を貪ってたことじゃないんだよ。女の子のひとり暮らしなんだから、ドア開けるときはちゃんと相手を確認してから開けろって俺アンタに散々言ったよねぇ?」
「えっ、あ、はあ」
「はあ!?」
「いえ! おっしゃる通りです、言われました、すみません!」
てっきり体型や摂取カロリーについてコッテリ絞られるのだと思っていたので、間抜けな相槌をうってしまった。が、すぐに背筋を正す。
「あとドア開けるにしても、薄着すぎ! 短パンと薄手のスウェットだけって……ありえないでしょ、そんな姿俺以外の男にも平気で見せてるわけ?」
「えぇと……いや、うん、ハイ、すみません……」
「すみませんじゃなくて。ほんっと危機管理出来てないよねぇ、だからひとり暮らしなんてやめとけって言ってんのに……」
泉くんは頭を抱えて、ずいと私に近づいた。至近距離で目と目を合わせ、まるで犬への躾のように凛とした声でハキハキと喋る。
「ドアを開ける前にドアスコープで相手を確認する。最初は確認してもチェーンかけたままで開けても良いくらい。あと薄着で出ない。これだけは守って」
「は、はい……」
「声が小さい!」
「はいっ!!」
ふん、と少しだけ満足そうに息を吐いて、泉くんはソファに腰を下ろした。隣のスペースを叩かれ、恐る恐る移動し隣へ腰を下ろす。
「アンタのそんな姿見られるのは俺だけじゃないの? ……これ以上心配かけるならここに住むからねぇ」
「えっ」
私が思わず明るい声を出してしまうと、泉くんはちょっと驚いたようにこちらを見た。しまった、と口に手を当てる私を見て、彼はクスッと微笑む。
「なぁに、一緒に住みたいわけ? そうなるとこんなクソみたいな暴飲暴食は見逃してあげないけど?」
「ぐ……バレないようにするよ、あいや、我慢します……。お菓子より泉くんが居てくれた方が良いな〜、なんて……」
「バッカみたい」
泉くんはそう言って私の額を小突いた。少し焦りはしたけれど、何とかいつもの恋人らしい雰囲気を取り戻せたようだ。……と、私が安堵して微笑んだところで、ピザの到着を告げるチャイムの音が鳴り響いたのだった。そのあとの泉くんの激怒の具合は、もはや言うまでもない。