ただいま/おかえり
自分の家の玄関先、俺はもう三十分くらいドアの前で立ち尽くしていた。新品のカギを鍵穴に差し込もうとしても緊張で手が震えるし、よしんばカギを開けられたとしても第一声になんて言えばいいのかがわからない。
普通に『ただいま』で良いはずだけど、なんだか口に馴染まないというか、照れくさいというか、とにかくぎこちなくなってしまいそうで不安だ。
「……ただいま、ただいま、ただいま……」
家の前で何度も『ただいま』の発音の練習をする姿ときたら、もう不審者以外の何者でもないだろう。わかってはいても、今朝『行ってきます』を言おうとして声がひっくり返ってしまったことを思い出すとやっぱり練習せざるをえない。夜のカップルって同棲したてのときどうしてるんだろう。ただの挨拶がこんなに難しいとは思わなかった。
でも彼女に『そろそろ帰るぞ〜』と連絡をしてもう一時間くらい経ってしまっている。いつまでも家の前でこんな不審な練習を続けるわけにもいかないし、そろそろ観念してドアを開けないと――とカギを握り直したその瞬間、突然目の前のドアが開いた。
「うぉわっ!?」
「あ、……おかえりなさい」
不意打ちの『おかえりなさい』――しかも可愛い笑顔つき――に胸がギュンと締めつけられる。
「たっ、ただいま!」
俺がぎこちなくも元気よくそう返すと、彼女はくすくす笑って俺を迎え入れた。玄関に彼女の靴と俺の靴が並ぶ。たったそれだけのことでもいちいちニヤけてしまうのだから、俺の浮かれ具合は我ながら心配になるくらいだ。
「なかなか帰って来ないから心配しちゃった」
「あ〜、悪い悪い。なんかちょっと、家に入るの緊張しちゃってさ」
俺が素直にそう言って上着を脱ぐと、彼女はちょっとびっくりしたように目を丸くして俺を見た。それから仕方なさそうに笑って、俺に近づき頭を撫でる。
「もう、真緒くんの家なんだからね。緊張なんかしないでよ」
「……うん、そうだよな。うん……あ〜でもダメだ、ニヤける」
「あはは、ニヤけちゃうのは許したげる。私も嬉しいもん」
彼女はそう言って幸せそうに笑った。ふと、これから毎日、帰るたびにこの笑顔を見られるのかとぼんやり考える。それなら明日からはちゃんとすぐドアを開けよう。緊張して練習してる時間なんてもったいなくて仕方ないから。
普通に『ただいま』で良いはずだけど、なんだか口に馴染まないというか、照れくさいというか、とにかくぎこちなくなってしまいそうで不安だ。
「……ただいま、ただいま、ただいま……」
家の前で何度も『ただいま』の発音の練習をする姿ときたら、もう不審者以外の何者でもないだろう。わかってはいても、今朝『行ってきます』を言おうとして声がひっくり返ってしまったことを思い出すとやっぱり練習せざるをえない。夜のカップルって同棲したてのときどうしてるんだろう。ただの挨拶がこんなに難しいとは思わなかった。
でも彼女に『そろそろ帰るぞ〜』と連絡をしてもう一時間くらい経ってしまっている。いつまでも家の前でこんな不審な練習を続けるわけにもいかないし、そろそろ観念してドアを開けないと――とカギを握り直したその瞬間、突然目の前のドアが開いた。
「うぉわっ!?」
「あ、……おかえりなさい」
不意打ちの『おかえりなさい』――しかも可愛い笑顔つき――に胸がギュンと締めつけられる。
「たっ、ただいま!」
俺がぎこちなくも元気よくそう返すと、彼女はくすくす笑って俺を迎え入れた。玄関に彼女の靴と俺の靴が並ぶ。たったそれだけのことでもいちいちニヤけてしまうのだから、俺の浮かれ具合は我ながら心配になるくらいだ。
「なかなか帰って来ないから心配しちゃった」
「あ〜、悪い悪い。なんかちょっと、家に入るの緊張しちゃってさ」
俺が素直にそう言って上着を脱ぐと、彼女はちょっとびっくりしたように目を丸くして俺を見た。それから仕方なさそうに笑って、俺に近づき頭を撫でる。
「もう、真緒くんの家なんだからね。緊張なんかしないでよ」
「……うん、そうだよな。うん……あ〜でもダメだ、ニヤける」
「あはは、ニヤけちゃうのは許したげる。私も嬉しいもん」
彼女はそう言って幸せそうに笑った。ふと、これから毎日、帰るたびにこの笑顔を見られるのかとぼんやり考える。それなら明日からはちゃんとすぐドアを開けよう。緊張して練習してる時間なんてもったいなくて仕方ないから。