ラッキーな日
お昼どき、ほんの気まぐれでESビルの空中庭園に足を運んだ。各々のんびり平和に過ごす空中庭園で、俺が一番初めに見つけたのは例の事務員の女のコだった。最近よく目につく。
彼女はベンチに腰掛け、膝のうえに小さな弁当箱を広げてハムスターみたいに頬に詰め込みながら、昼食をとっているらしかった。一呼吸置いてから彼女に近づき、隣へドカッと腰を下ろす。
「よォ、美味そうなモン食ってんじゃね〜の、俺っちにもちょっと恵んでくれよ」
「…………」
「オイオイ無視かよ? 燐音くん泣いちゃうぜ?」
「んふふ」
彼女は手で口もとを隠して、何か可笑しそうに笑った。どうやら口に物が入ってるから喋れないらしい。俺が黙って見つめたまま待っていると、しばらくして細いのどがごくんと食べ物を飲み込んだ。
「えっと、お腹すいてるんです? おにぎりあげましょうか」
「マジ? 言ってみるモンだなァ、って二個あるうちの一個かよ。人にあげちまって大丈夫なのか?」
思っていたよりずっと小さな弁当箱に、ちょこんと詰められたこれまた小さなおにぎりを見て流石に貰うのは気が引けた。
昼メシがたったこれだけ、となるとダイエットか、もしくは相当金に困っているのか……とにかく腹もちが良い炭水化物を奪うわけにはいかない。
「おにぎり、ホントは一個で良いくらいなんですよ。でもこの前椎名さんにドン引きされちゃって」
「まァあいつほど食えとは言わねェが、流石にもうちょい食ったほうが良いと思うぜ。ってことでこのカワイイやつで許してやるよ」
タコのような形をした顔つきのウィンナーを指さすと、彼女は素直にウィンナーを箸の先で摘み、手を添えて俺の方に差し出した。「あ〜ん♡ってしてくれよ」……とからかおうと思っていたつもりがまさかの先手を打たれてしまい、つい数秒固まってしまう。
「? どうぞ」
何か問題でもあるのかと言いたげに小首を傾げられる。正直問題しかねェが、ここで躊躇うのもキャラじゃないというか、とにかく無下にはできない。なんでもないようなふりをしてぱくりとウィンナーを口に入れた。
「ふふ、あっそうだ、天城さんに渡そうと思ってたものがあって」
「ン、なに? 愛のこもったラブレターでもくれんのか?」
「ラブレターじゃないですけど……じゃ〜ん」
彼女がポケットから取り出したのは、四つ葉のクローバーが挟まれた栞だった。まったく予想だにしなかった代物に、つい目を丸くして黙ってしまう。
「たまたま四つ葉のクローバーを見つけたので、押し花にしてみたんです。持ってたらパチンコ大当たりするかもしれないですよ」
「……ぶはっ、違ェね〜な! ありがとよ、大事にするぜ」
どう見ても俺には似合わない可愛らしい栞を受け取って、胸ポケットへしまう。すると彼女は満足そうにニコニコ笑って頷いた。これだけでも充分今日は大当たりっしょ、と内心浮き足立ちつつも、あんまり表には出ないよう余裕ぶって笑って見せる。
「これで大勝ちしたら、オネーサンにお返ししなきゃなァ」
「ふふ、楽しみにしてます」
嬉しそうな顔に不覚にも心臓の辺りがぎゅうと締めつけられた。最近よく目につくのも、わざわざこうして話しかけに来てしまうのも、なんでかわからねェとしらばっくれられたら良かったのに。
彼女はベンチに腰掛け、膝のうえに小さな弁当箱を広げてハムスターみたいに頬に詰め込みながら、昼食をとっているらしかった。一呼吸置いてから彼女に近づき、隣へドカッと腰を下ろす。
「よォ、美味そうなモン食ってんじゃね〜の、俺っちにもちょっと恵んでくれよ」
「…………」
「オイオイ無視かよ? 燐音くん泣いちゃうぜ?」
「んふふ」
彼女は手で口もとを隠して、何か可笑しそうに笑った。どうやら口に物が入ってるから喋れないらしい。俺が黙って見つめたまま待っていると、しばらくして細いのどがごくんと食べ物を飲み込んだ。
「えっと、お腹すいてるんです? おにぎりあげましょうか」
「マジ? 言ってみるモンだなァ、って二個あるうちの一個かよ。人にあげちまって大丈夫なのか?」
思っていたよりずっと小さな弁当箱に、ちょこんと詰められたこれまた小さなおにぎりを見て流石に貰うのは気が引けた。
昼メシがたったこれだけ、となるとダイエットか、もしくは相当金に困っているのか……とにかく腹もちが良い炭水化物を奪うわけにはいかない。
「おにぎり、ホントは一個で良いくらいなんですよ。でもこの前椎名さんにドン引きされちゃって」
「まァあいつほど食えとは言わねェが、流石にもうちょい食ったほうが良いと思うぜ。ってことでこのカワイイやつで許してやるよ」
タコのような形をした顔つきのウィンナーを指さすと、彼女は素直にウィンナーを箸の先で摘み、手を添えて俺の方に差し出した。「あ〜ん♡ってしてくれよ」……とからかおうと思っていたつもりがまさかの先手を打たれてしまい、つい数秒固まってしまう。
「? どうぞ」
何か問題でもあるのかと言いたげに小首を傾げられる。正直問題しかねェが、ここで躊躇うのもキャラじゃないというか、とにかく無下にはできない。なんでもないようなふりをしてぱくりとウィンナーを口に入れた。
「ふふ、あっそうだ、天城さんに渡そうと思ってたものがあって」
「ン、なに? 愛のこもったラブレターでもくれんのか?」
「ラブレターじゃないですけど……じゃ〜ん」
彼女がポケットから取り出したのは、四つ葉のクローバーが挟まれた栞だった。まったく予想だにしなかった代物に、つい目を丸くして黙ってしまう。
「たまたま四つ葉のクローバーを見つけたので、押し花にしてみたんです。持ってたらパチンコ大当たりするかもしれないですよ」
「……ぶはっ、違ェね〜な! ありがとよ、大事にするぜ」
どう見ても俺には似合わない可愛らしい栞を受け取って、胸ポケットへしまう。すると彼女は満足そうにニコニコ笑って頷いた。これだけでも充分今日は大当たりっしょ、と内心浮き足立ちつつも、あんまり表には出ないよう余裕ぶって笑って見せる。
「これで大勝ちしたら、オネーサンにお返ししなきゃなァ」
「ふふ、楽しみにしてます」
嬉しそうな顔に不覚にも心臓の辺りがぎゅうと締めつけられた。最近よく目につくのも、わざわざこうして話しかけに来てしまうのも、なんでかわからねェとしらばっくれられたら良かったのに。