愛するひとの
私が生まれてきたところ。すなわち、子宮。ひとが皆、かつて生を授かり通ってきた場所。それはきっと単なる臓器などではなくて、私にはわからない神秘や奇跡を確かに秘めているものなのだろう。
ただ性交をして受精すれば生命が発生するのではなくて、女性は生まれてきてからずっと、この華奢な身体で健気にも生成の前準備を続けてきたのだ。そう思うとなんだか申し訳なく感ぜられるし、同時に尊敬をも禁じえない。
それはともかくとして、今、まさに目の前でその子宮に苦しめられている彼女に対して一体私が何をできるというのだろう。血液は不足して顔面蒼白、貧血ゆえかいまいち焦点の定まらない瞳、痛みに悶えて額に滲む脂汗――私はそれらをただ不安な気持ちで見守るしかできない。
せめてもの思いで、ベッドに寝そべった彼女の下腹部へ手のひらを添えている。でもたったそれだけだ。私よりよっぽど鎮痛剤や湯たんぽ、カイロのほうが優秀だと思う。けれど彼女はふとこちらを見て、ふにゃりとゆるやかに笑った。
「凪砂くん……手、ありがとね、うれしい」
「……ううん。ちっとも役に立てなくて、ごめんね」
「そんなことない」
彼女の少し冷たい手の先が、ちょこんと私の手に触れる。彼女は風に揺られた木の葉のせせらぎのような声で、こっそりと私に囁きかけてくれた。
「そんなことないよ。凪砂くんの手に触ってもらえてると、痛いのもましになるもん。あったかくてやさしくて安心できるから、私は好きだよ」
「……そうなの?」
「うん。そうなの」
「そう……じゃあ、なるべくずっと触れておくね。君が少しでも安心できるように」
そう言ってもう片方の空いた手で彼女の頬を包み込んで撫でてみる。彼女はくすぐったそうに睫毛を伏せて、幸せそうに笑った。
この肌の向こうにある小さな臓器がもし手に取って見られるとしたら、きっとそれは完璧で美しい形と色をしているのだろう。残念ながら手に取ってみることはできないけれど、触れることだけはできる。それは唯一、彼女と身体を交えるときだけだ。そのときだけ、私はその美しさに触れられる。
こうして彼女を苦しめてしまうあたり少し厄介な器官ではあるけれど、私はやっぱり彼女の子宮さえ愛おしく思えて仕方がない。
だからどうかあんまり苦しめないであげてね、と、手のひらから彼女の子宮へ伝わるようにやさしくお腹を撫でてみた。彼女は微笑んだまま、安心したようにそっと眠りについた。
ただ性交をして受精すれば生命が発生するのではなくて、女性は生まれてきてからずっと、この華奢な身体で健気にも生成の前準備を続けてきたのだ。そう思うとなんだか申し訳なく感ぜられるし、同時に尊敬をも禁じえない。
それはともかくとして、今、まさに目の前でその子宮に苦しめられている彼女に対して一体私が何をできるというのだろう。血液は不足して顔面蒼白、貧血ゆえかいまいち焦点の定まらない瞳、痛みに悶えて額に滲む脂汗――私はそれらをただ不安な気持ちで見守るしかできない。
せめてもの思いで、ベッドに寝そべった彼女の下腹部へ手のひらを添えている。でもたったそれだけだ。私よりよっぽど鎮痛剤や湯たんぽ、カイロのほうが優秀だと思う。けれど彼女はふとこちらを見て、ふにゃりとゆるやかに笑った。
「凪砂くん……手、ありがとね、うれしい」
「……ううん。ちっとも役に立てなくて、ごめんね」
「そんなことない」
彼女の少し冷たい手の先が、ちょこんと私の手に触れる。彼女は風に揺られた木の葉のせせらぎのような声で、こっそりと私に囁きかけてくれた。
「そんなことないよ。凪砂くんの手に触ってもらえてると、痛いのもましになるもん。あったかくてやさしくて安心できるから、私は好きだよ」
「……そうなの?」
「うん。そうなの」
「そう……じゃあ、なるべくずっと触れておくね。君が少しでも安心できるように」
そう言ってもう片方の空いた手で彼女の頬を包み込んで撫でてみる。彼女はくすぐったそうに睫毛を伏せて、幸せそうに笑った。
この肌の向こうにある小さな臓器がもし手に取って見られるとしたら、きっとそれは完璧で美しい形と色をしているのだろう。残念ながら手に取ってみることはできないけれど、触れることだけはできる。それは唯一、彼女と身体を交えるときだけだ。そのときだけ、私はその美しさに触れられる。
こうして彼女を苦しめてしまうあたり少し厄介な器官ではあるけれど、私はやっぱり彼女の子宮さえ愛おしく思えて仕方がない。
だからどうかあんまり苦しめないであげてね、と、手のひらから彼女の子宮へ伝わるようにやさしくお腹を撫でてみた。彼女は微笑んだまま、安心したようにそっと眠りについた。