愛ゆえに
⚠️一つ前の作品、「交わるのは」の続きになりますのでそちらを読んでからのほうが楽しめます。(視点は変わります)
ベッドへ彼女を横たえると、彼女は真っ赤な顔を横へ向けて消え入りそうな声を出した。
「電気……消してほしい、です」
「あぁ、暗いほうが良い?」
「うん、恥ずかしいから」
「そっか」
黒い髪から覗く真っ赤な耳が愛おしくなって指先で撫でる。彼女の顔も肌も、電気を消してしまえばいまいちよく見えないだろう。彼女としてはそうしてほしいのだろうけど、僕としては惜しくてたまらない。
「でもごめんね。僕も慣れていないから、暗いと君を傷つけてしまうかもしれないし、今晩は我慢してくれないかな」
「う……わかった、」
本当に純真で扱いやすい子だとつくづく思う。一歩外へ出たらすぐに食い散らされてしまうほど可愛らしくてか弱くて世間知らずで、けれど真摯に僕を愛してくれる、愛おしい女の子。僕は今まで彼女に触れてこなかった。恐ろしかったのだ。自分が彼女を汚して傷つけてしまうことが。
何度も何度も食むようなキスをしながら、きっちりと止められたブラウスのボタンを外す。そのか細い白い喉や無垢なデコルテを指先で確かめるように伝っていく。肌の向こうから心臓の音が聞こえてくる。
「緊張してる?」
「……」
彼女はもういっぱいいっぱいだとでも言うように、こくこくと頷いた。ブラウスと肌着を脱がせて背中へ手を回し、可愛らしいブラジャーのホックをパチンと外す。
「まだなんにもしていないけれど、大丈夫かな」
「大丈夫なわけない、あっやだ待って!」
ブラジャーを押し上げてしまおうとしたところで、彼女が腕で胸を隠しごろんと胎児のように身体を丸めた。直前になって見られることの羞恥に耐えられなくなったらしい。本当にまだなんにも出来ていないけれど、こんな調子で大丈夫なんだろうか。
「見せてくれないの? 寂しいな」
「いや、見せたくないとかじゃないの、でもやっぱり」
「……あはは、泣くほどなんだね。ちょっとショックだな」
「ごめ、ごめんなさい」
彼女が恥ずかしさのあまりその瞳に涙を浮かべたので、力で押し通すのは諦め、一旦身体を起こした。彼女が箱入り娘でそういうことに疎いのは理解していたけれど、まさかここまでとは思っていなかったのだ。
「僕が先に脱ごうか」
「へっ?」
「よく考えてみたら不公平だもんね。君だけ脱がされて、僕はまだ着てるなんて」
「え〜……と、そういうことじゃないような……?」
少しでも気が楽にならないかと、僕もボタンを外して服を脱ぎ去った。ズボンを脱いで下着に手をかけたところで、彼女が僕の手を止める。
「そ、っそこまでは、あの、もうちょっとしてからで」
「あぁそうか、見るのも恥ずかしいよね。これでどう? 君も脱ぐ気になったりする?」
「……」
さすがに無理があったかな、と苦笑していると、彼女は意を決したようにくちびるを噛み締めてごくりと唾を飲み込んだ。そしてホックの外れたブラジャーに手をかけ、自ら脱ぎ捨てたのだ。
「っ……嫌とかじゃないの、本当に。慣れてないから恥ずかしくて怖いだけで」
「うん。……うん、わかってるよ。大丈夫、疑ったりしないから」
素肌のまま彼女を抱き締めると、普段ハグをするときとは違う幸福感が溢れてきた。
彼女が落ち着くまで、僕らは随分長い間ずっとお互いを抱き締めあって黙っていた。まるでもともと二人で一人の人間だったかのように。
「……やっぱり、これ、つらかったりするの?」
「えっ?」
彼女は不意に僕の下着へ手を伸ばし、遠慮がちにそれに触れた。僕はやんわり彼女の手を阻み、動揺を誤魔化すように彼女の瞼へキスをした。
「つらくはないよ。気にしないで」
「そうなんだ、なら良いんだけど……英智さんにもちゃんと気持ち良くなってほしいから」
「うん……今は僕の番だから、もう少し待っていてほしいな」
「ひゃっ、」
少し身体を離して、ようやく彼女の胸に手を添えた。その柔らかさを手に馴染ませていると、彼女はパッと口を手で覆った。その手の甲へくちびるを当て、瞳を覗き込む。
「我慢しないで、ちゃんと聞かせてほしいな」
「……っ、でも……」
「恥ずかしがらないでいいよ、僕以外誰も聞いてないから」
「英智さんに聞かれるのが恥ずかしいのっ」
「それはもう諦めなさい、これからもっと恥ずかしいことをするんだから」
ずっと触れずに焦らしていた乳首に触れてやると、彼女はびっくりしたのか身体を跳ねさせて思わず声を上げた。もう彼女の余裕が全く無いのにも構わずに、桃色の突起へくちびるを寄せる。試しに舌を這わせてみると、びくりと身体が反り返った。
「ゃ、それやだ……っ♡」
「こういうときは気持ちいいって言うんだよ。言ってみて」
「え……っう、ぁ、き……きもちい、?」
「そう、よくできました」
洗脳をするように言い聞かせると、彼女は素直にそれに従った。ご褒美にと乳首を指で撫でてやればまた甘い声が漏れる。
「ふぁ……♡ や、ぅ……きもちいい、きもちい、っ英智さん、」
「うん?」
「……っキスして、」
「もちろん」
望まれるままにくちびるへキスをする。彼女は不安そうに眉をハの字にして僕を見つめていた。長い睫毛はほんの少し濡れている。
「あの、っあのね」
「うん」
「こんなに……こんなになっちゃうと思ってなかったの、好きな人に触れられるのが、こんなに気持ちいいって知らなかったの」
「ふふ、そうだろうね。怖い?」
彼女はふるふると首を横に振った。その瞳はもう羞恥よりも甘やかさがまさっているように見える。僕の触れたところから彼女が少しずつ変わってゆく。
「……大好き」
「僕もだよ。……全部脱がせちゃってもいい?」
「う……うん、良いよ」
花びらを一枚一枚丁寧に剥がしていくように、いよいよ彼女のスカートを脱がせてベッドの下へ放り、腰に触れた。膝が微かに震えているけれど、さっきより身体の力は抜けている。
押し黙って不安そうにしている彼女へキスをすると、彼女は僕の首に腕を回してはにかむように笑った。下着の端に指をかけ、すす、とずらしていく。何も身につけていない彼女のまっさらな身体は、溜め息が出るほど美しかった。
それは別に造形がどうとかいうことではなく、彼女の清廉さゆえのものだった。そして彼女の身体をこうして愛せるのが生涯僕だけなのだと思うと、たまらなく愛おしい気持ちになったのだ。
「…………もう、ばか、あんまり見ないで」
「あはは」
僕があんまりジッと見つめていたものだから、彼女は拗ねたように僕の顔へ手を当てた。
「ごめんね、少し感動しちゃって。全部僕のものなんだよね、ちょっと信じられないな」
「そんなの、ずっと前からそうなのに」
「そうだね。そうだったね、ふふ、嬉しいな」
愛おしさを伝えるために何度もキスをしてしまう。そして慈しむように彼女の髪や頬や首すじを撫でて、この柔らかさがすべて僕だけのものなのだと噛み締める。
「痛かったら言ってね、もちろん、そんなことはないよう丁重に扱うけれど」
彼女は黙って頷いた。そうっと、下腹部から性器に至るまで指を滑らせていく。
「……良かった。ちゃんと濡れてるね」
「ん、えっと……?」
濡れているというのがどういう意味なのかわからないらしく、彼女は不思議そうに首を傾げた。教えるべきか否かちょっと迷ってから、彼女の反応を見てみたくて教えることにした。
「君がちゃんと感じて、僕を受け入れようとしてくれているということだよ」
「……むぅ」
「それはどういう反応なの?」
「否定はしないけど、恥ずかしいから肯定もしたくなくて困ってるの」
「君って本当に可愛いね」
くすくす笑って素直にそう言うと、彼女は一瞬嬉しそうに顔を赤らめたのに、すぐそれを誤魔化すようにわざと顔を顰めた。そんな一挙一動がもう可愛くて可愛くて仕方ない。
食べちゃいたいくらい可愛い、とか、もういっそ優しくするのはやめてぐちゃぐちゃにしてやりたいくらい可愛い、と思いはするけれど、やはり今後を考えるとそんなことはできない。
もどかしく思いつつ、濡れた性器に指を這わせて彼女の様子を窺いながら穴に指を滑り込ませた。指一本だけでも随分きゅうきゅうで、とてもじゃないけれどここにモノが入るとは思えない。
「……痛くない?」
「い、痛くはないけど、変な感じ」
「そっか。できそうなら、力は抜いておいて」
「うん」
彼女は素直に身体をリラックスさせ、気になるのかジッと僕の手を見ていた。
正直今日は、挿入に辿り着かなくても別に構わないと思っていた。彼女にとっては異性に身体を晒すことすら初めてなのに、それを一日でいきなり本番まで経験させるのは少し不安もあった。
今日は指が二本入れば良いほう、と自分に言い聞かせ、中に入れた指を内側へ軽く折り曲げる。すると思いもよらず彼女の身体が跳ねた。
「ひゃ、っなに?」
「……ここ?」
「っ♡ んぅ、なに、なになにっ怖い、」
「痛い? それとも気持ちいい?」
同じ場所をずっと指の腹で刺激し続けると、彼女は泣きそうな顔をして僕にしがみついた。息を乱しながら手を震わせている。
「い、痛くない、痛くないっ」
「痛くないならなんなの?」
「〜〜っき、気持ちいい、これっ♡ お腹っへんになる、♡ こわいっ、英智さん」
「うん、大丈夫だよ、ここにいるからね」
首にしがみついているせいで顔が見えないのが惜しまれた。彼女の頭に擦り寄りながら、内壁を擦る指を少し早める。
「は、っえ、やだ……♡ やだ、なんっなんかきちゃう、ぁ……っきゃあ!?」
空いていたほうの手で胸に触れると、彼女は思いのほか早く達してしまった。彼女はびっくりしたように目を丸くして僕を見つめる。
「……っい、ぇ、今の……? 心臓止まっちゃった、」
「っふふ、止まってないよ。たくさん動いてる」
「なに、いまのなんだったの? 頭真っ白になって、気持ちよくて、でも怖かった」
「そっか。今のはね、なんて言ったらいいのかな。イッちゃったんだよ」
「え……どこに……?」
「どことかではないけれど……男性でいうところの射精かな。気持ちよさが一定以上になったとき、一際大きいのがくるんだよ。それをイくとか絶頂するって言うんだ。女性の場合は何度でもイけるらしいし、安心していいよ」
僕がそうやって説明をすると、彼女はぽかんとしたまま小さく頷いた。多分よくわかっていないのだろう。けれど自分の手で彼女を絶頂させられたことが、僕にとっては思いのほか嬉しかった。
「ほら、一回イッちゃったからとろとろになってる」
「わ、うわっ、やだやめて」
一度指を抜き、わざと音が出るように指を出し入れする。随分ほぐれてきたようだ。今なら入るかもしれない、と思い、指を二本なかへ入れてみる。
「んぐ……」
「痛い?」
「痛くない、っもう、痛かったらちゃんと言うから」
「ふふ、ごめんね。でも不安なんだ、君がどう感じているのか逐一知っておきたい。少し奥まで入れるよ」
彼女が頷くのを見て、なかを傷つけないよう注意しながらゆっくりと指の付け根まで入れていく。試しにまた指を腹側へ折って内壁を擦ると、彼女の腰が僅かに浮いた。
「……腰が浮いちゃってるよ」
「んぇ、あ、ごめんなさい」
「僕としては、おねだりされてるみたいで嫌いじゃないけどね」
「…………み、みたい、じゃないもん」
彼女の恥ずかしがる顔が見たくてわざと意地悪を言ったのに、彼女は恥ずかしがりながらもとんでもないことを口にした。
「どういうこと?」
「だから、おねだりはしてます」
「……意味はわかってる? おねだりって、いれてほしいってことだよ?」
「もうっ、だからそう言ってる! 英智さんに入れてほしい、私ばっかり触られるんじゃなくてちゃんと、……あなたと繋がりたくて頑張ってるのに」
本当はもっと、優しく丁寧に、段階を踏んで進めていくつもりだった。けれど彼女にここまで言われて、それでもゆっくりやっていこうだなんてもう思えなかったのだ。
指を抜いて、ベッドサイドの引き出しからコンドームを取り出す。僕が下着を脱ぐと、彼女は真っ赤になって固まってしまった。
「僕だって君と早く繋がりたいよ、でも本当に、傷つけるのが怖かったんだ。でも君にそこまで言わせてしまったら、そうも言っていられないよね」
「えぁ、あの、怒った……?」
「まさか。余裕がないだけだよ、情けないことだけど。……もし君が傷ついても、ちゃんと後で労わってあげるから許してね」
「はい……」
触ってもいないのに笑っちゃうくらい勃起してしまった自分の性器にコンドームを被せる。彼女のひざ裏に手を当て、有無を言わせず脚を開かせた。そしてその小さな穴に亀頭を押し当てる。ぬ、とこじ開けるように、もしくは抉っていくように少しずつ先端がなかに入っていった。
「い、……っ」
「痛い? ごめんね」
ぎゅっと目を瞑った彼女の頬を撫でる。彼女は首を横に振り、「痛い」とだけは意地でも口にしなかった。それを言ったら僕がやめてしまうと思ったのかもしれない。
彼女が思うほど僕は紳士ではなくて、むしろ痛みを必死に耐える姿をいじらしく愛おしく感じていた。
「……っい、いまどのくらい?」
「半分の半分かな」
「うそでしょ」
「ほんと」
ぴったりと素肌をくっつけて、お互いの鼻先を擦り合わせる。彼女は睫毛を濡らして息を止めていた。
「深呼吸してごらん、我慢しないで」
「…………ふぅ、う〜……」
「うん、うん……上手だね」
重ねた胸から彼女の心音が伝わってくる。じっとりと肌が汗ばんで溶け合う。不思議とだんだん、奥へ入っていけるようになる。力が抜けたせいなのか馴染んできたからなのかはわからないけれど、とにかく一番奥のところまでなんとか入ったようだ。
「苦しい?」
彼女の額にはりつく前髪を指先でどけてやると、彼女はゆるく首を横に振って微笑んだ。
「いま、どのくらい?」
「全部入ったよ」
「良かった……」
「うん。本当に」
まだ腰を動かすことはできず、ただ愛おしさのままに彼女を抱きしめたまま腰を押し当てることしかできなかった。
本能的に、隔てられた零点零何ミリをもどかしく感じる。心臓が止まってしまいそうなくらい早くなっていく。……目の前が滲む。
「英智さん」
「……ごめん、別に悲しいわけではないんだけど」
「うん、うん、そうだね」
愛おしさとかもどかしさとか嬉しさとか幸福とか性的欲求とか、色んな感情が一気に押し寄せて頭が掻き乱される。思わず溢れた涙に一番近いのはやっぱり、幸福だった。
彼女はもうなんにも言わず、ただ僕を優しく抱きしめてくれた。格好がつかないなぁと恥じ入りつつ、素直に彼女の首すじに擦り寄って甘えてみる。
「はぁ……、生まれてきてよかった。君と出逢えて本当に……なまえ、君が僕を愛してくれて、よかった」
「うん。私も英智さんに会えてすごく幸せ、愛してるよ」
甘く囁く優しい声はまるで母親の子守唄みたいだった。もう何度目かわからないキスをして、こつんと額を合わせる。
「気を抜いたらこのまま死んじゃいそうだ」
「すぐそういうこと言う……死なないで」
彼女はそう言って、おとぎ話のプリンセスみたいに僕にキスをした。
「そうだね。とてもじゃないけど死んでる場合じゃないな、君をちゃんと満足させてあげなきゃ」
「もう満たされてはいるけど、あっ待って、」
ジッとしていた腰を一旦引いて、もう一度奥まで入れる。それをゆっくりと繰り返していけば、ちょっと余裕を取り戻していた彼女がまたいっぱいいっぱいになって僕に縋りついた。
「まってやだ、やだっ見ないで、あっ」
「大丈夫、可愛いよ」
「そっ……うじゃなくて、!」
「隠さないで、全部見せて。僕のものなんだろう?」
僕が息を乱しながらそう言うと彼女は熱に浮かされた瞳に僕をうつした。澄んだ瞳のなかには僕しかいない。白いシーツに散らばって揺れる髪の一本一本も、彼女の肌の熱さも、初めてに戸惑うその意識すらも、全部が僕だけのものだった。
「……英智さん、」
「……」
彼女は涙を滲ませながら、黙ってこちらへ両手を広げた。意図を汲んで抱き寄せると、彼女は両足も僕の腰に巻き付けてぎゅうっと僕を抱きしめてきた。
「大好き」
耳もとに甘い声がかかる。あっ、と思ったときには遅かった。もう少し我慢しようとしていたのに、うっかり達してしまったのだ。僕が腰を止めると、彼女は腕をほどいて僕の顔を覗き込んだ。
「えへへ、グッときた?」
「……君って本当に……はぁ、流石に少し悔しいな」
いたずらに笑う彼女にキスをして、ずるりと腰を引く。コンドームの口を縛ってゴミ箱に放り捨て、改めて彼女に向き直った。彼女はぐったりとシーツにくるまったまま、なんだか楽しそうにくすくす笑っていた。
「どうしたの、ニコニコして」
「ふふ、だって。英智さんの余裕のない顔なんて滅多に見られないんだもん」
「……そんなに酷い顔してた?」
「ひみつ」
彼女の隣に寝そべって頬に触れる。ただ身体を重ねただけなのに、する前と後では何かが決定的に違うような気がした。
彼女が望まないのなら別にしなくても……と思えていた頃には、多分もう戻れないのだろう。こんな幸福を味わってしまったら――彼女の愛で満たされてしまったら――もう一生彼女を手放せない。それを知ってか知らずか、彼女は心底幸せそうに笑った。
ベッドへ彼女を横たえると、彼女は真っ赤な顔を横へ向けて消え入りそうな声を出した。
「電気……消してほしい、です」
「あぁ、暗いほうが良い?」
「うん、恥ずかしいから」
「そっか」
黒い髪から覗く真っ赤な耳が愛おしくなって指先で撫でる。彼女の顔も肌も、電気を消してしまえばいまいちよく見えないだろう。彼女としてはそうしてほしいのだろうけど、僕としては惜しくてたまらない。
「でもごめんね。僕も慣れていないから、暗いと君を傷つけてしまうかもしれないし、今晩は我慢してくれないかな」
「う……わかった、」
本当に純真で扱いやすい子だとつくづく思う。一歩外へ出たらすぐに食い散らされてしまうほど可愛らしくてか弱くて世間知らずで、けれど真摯に僕を愛してくれる、愛おしい女の子。僕は今まで彼女に触れてこなかった。恐ろしかったのだ。自分が彼女を汚して傷つけてしまうことが。
何度も何度も食むようなキスをしながら、きっちりと止められたブラウスのボタンを外す。そのか細い白い喉や無垢なデコルテを指先で確かめるように伝っていく。肌の向こうから心臓の音が聞こえてくる。
「緊張してる?」
「……」
彼女はもういっぱいいっぱいだとでも言うように、こくこくと頷いた。ブラウスと肌着を脱がせて背中へ手を回し、可愛らしいブラジャーのホックをパチンと外す。
「まだなんにもしていないけれど、大丈夫かな」
「大丈夫なわけない、あっやだ待って!」
ブラジャーを押し上げてしまおうとしたところで、彼女が腕で胸を隠しごろんと胎児のように身体を丸めた。直前になって見られることの羞恥に耐えられなくなったらしい。本当にまだなんにも出来ていないけれど、こんな調子で大丈夫なんだろうか。
「見せてくれないの? 寂しいな」
「いや、見せたくないとかじゃないの、でもやっぱり」
「……あはは、泣くほどなんだね。ちょっとショックだな」
「ごめ、ごめんなさい」
彼女が恥ずかしさのあまりその瞳に涙を浮かべたので、力で押し通すのは諦め、一旦身体を起こした。彼女が箱入り娘でそういうことに疎いのは理解していたけれど、まさかここまでとは思っていなかったのだ。
「僕が先に脱ごうか」
「へっ?」
「よく考えてみたら不公平だもんね。君だけ脱がされて、僕はまだ着てるなんて」
「え〜……と、そういうことじゃないような……?」
少しでも気が楽にならないかと、僕もボタンを外して服を脱ぎ去った。ズボンを脱いで下着に手をかけたところで、彼女が僕の手を止める。
「そ、っそこまでは、あの、もうちょっとしてからで」
「あぁそうか、見るのも恥ずかしいよね。これでどう? 君も脱ぐ気になったりする?」
「……」
さすがに無理があったかな、と苦笑していると、彼女は意を決したようにくちびるを噛み締めてごくりと唾を飲み込んだ。そしてホックの外れたブラジャーに手をかけ、自ら脱ぎ捨てたのだ。
「っ……嫌とかじゃないの、本当に。慣れてないから恥ずかしくて怖いだけで」
「うん。……うん、わかってるよ。大丈夫、疑ったりしないから」
素肌のまま彼女を抱き締めると、普段ハグをするときとは違う幸福感が溢れてきた。
彼女が落ち着くまで、僕らは随分長い間ずっとお互いを抱き締めあって黙っていた。まるでもともと二人で一人の人間だったかのように。
「……やっぱり、これ、つらかったりするの?」
「えっ?」
彼女は不意に僕の下着へ手を伸ばし、遠慮がちにそれに触れた。僕はやんわり彼女の手を阻み、動揺を誤魔化すように彼女の瞼へキスをした。
「つらくはないよ。気にしないで」
「そうなんだ、なら良いんだけど……英智さんにもちゃんと気持ち良くなってほしいから」
「うん……今は僕の番だから、もう少し待っていてほしいな」
「ひゃっ、」
少し身体を離して、ようやく彼女の胸に手を添えた。その柔らかさを手に馴染ませていると、彼女はパッと口を手で覆った。その手の甲へくちびるを当て、瞳を覗き込む。
「我慢しないで、ちゃんと聞かせてほしいな」
「……っ、でも……」
「恥ずかしがらないでいいよ、僕以外誰も聞いてないから」
「英智さんに聞かれるのが恥ずかしいのっ」
「それはもう諦めなさい、これからもっと恥ずかしいことをするんだから」
ずっと触れずに焦らしていた乳首に触れてやると、彼女はびっくりしたのか身体を跳ねさせて思わず声を上げた。もう彼女の余裕が全く無いのにも構わずに、桃色の突起へくちびるを寄せる。試しに舌を這わせてみると、びくりと身体が反り返った。
「ゃ、それやだ……っ♡」
「こういうときは気持ちいいって言うんだよ。言ってみて」
「え……っう、ぁ、き……きもちい、?」
「そう、よくできました」
洗脳をするように言い聞かせると、彼女は素直にそれに従った。ご褒美にと乳首を指で撫でてやればまた甘い声が漏れる。
「ふぁ……♡ や、ぅ……きもちいい、きもちい、っ英智さん、」
「うん?」
「……っキスして、」
「もちろん」
望まれるままにくちびるへキスをする。彼女は不安そうに眉をハの字にして僕を見つめていた。長い睫毛はほんの少し濡れている。
「あの、っあのね」
「うん」
「こんなに……こんなになっちゃうと思ってなかったの、好きな人に触れられるのが、こんなに気持ちいいって知らなかったの」
「ふふ、そうだろうね。怖い?」
彼女はふるふると首を横に振った。その瞳はもう羞恥よりも甘やかさがまさっているように見える。僕の触れたところから彼女が少しずつ変わってゆく。
「……大好き」
「僕もだよ。……全部脱がせちゃってもいい?」
「う……うん、良いよ」
花びらを一枚一枚丁寧に剥がしていくように、いよいよ彼女のスカートを脱がせてベッドの下へ放り、腰に触れた。膝が微かに震えているけれど、さっきより身体の力は抜けている。
押し黙って不安そうにしている彼女へキスをすると、彼女は僕の首に腕を回してはにかむように笑った。下着の端に指をかけ、すす、とずらしていく。何も身につけていない彼女のまっさらな身体は、溜め息が出るほど美しかった。
それは別に造形がどうとかいうことではなく、彼女の清廉さゆえのものだった。そして彼女の身体をこうして愛せるのが生涯僕だけなのだと思うと、たまらなく愛おしい気持ちになったのだ。
「…………もう、ばか、あんまり見ないで」
「あはは」
僕があんまりジッと見つめていたものだから、彼女は拗ねたように僕の顔へ手を当てた。
「ごめんね、少し感動しちゃって。全部僕のものなんだよね、ちょっと信じられないな」
「そんなの、ずっと前からそうなのに」
「そうだね。そうだったね、ふふ、嬉しいな」
愛おしさを伝えるために何度もキスをしてしまう。そして慈しむように彼女の髪や頬や首すじを撫でて、この柔らかさがすべて僕だけのものなのだと噛み締める。
「痛かったら言ってね、もちろん、そんなことはないよう丁重に扱うけれど」
彼女は黙って頷いた。そうっと、下腹部から性器に至るまで指を滑らせていく。
「……良かった。ちゃんと濡れてるね」
「ん、えっと……?」
濡れているというのがどういう意味なのかわからないらしく、彼女は不思議そうに首を傾げた。教えるべきか否かちょっと迷ってから、彼女の反応を見てみたくて教えることにした。
「君がちゃんと感じて、僕を受け入れようとしてくれているということだよ」
「……むぅ」
「それはどういう反応なの?」
「否定はしないけど、恥ずかしいから肯定もしたくなくて困ってるの」
「君って本当に可愛いね」
くすくす笑って素直にそう言うと、彼女は一瞬嬉しそうに顔を赤らめたのに、すぐそれを誤魔化すようにわざと顔を顰めた。そんな一挙一動がもう可愛くて可愛くて仕方ない。
食べちゃいたいくらい可愛い、とか、もういっそ優しくするのはやめてぐちゃぐちゃにしてやりたいくらい可愛い、と思いはするけれど、やはり今後を考えるとそんなことはできない。
もどかしく思いつつ、濡れた性器に指を這わせて彼女の様子を窺いながら穴に指を滑り込ませた。指一本だけでも随分きゅうきゅうで、とてもじゃないけれどここにモノが入るとは思えない。
「……痛くない?」
「い、痛くはないけど、変な感じ」
「そっか。できそうなら、力は抜いておいて」
「うん」
彼女は素直に身体をリラックスさせ、気になるのかジッと僕の手を見ていた。
正直今日は、挿入に辿り着かなくても別に構わないと思っていた。彼女にとっては異性に身体を晒すことすら初めてなのに、それを一日でいきなり本番まで経験させるのは少し不安もあった。
今日は指が二本入れば良いほう、と自分に言い聞かせ、中に入れた指を内側へ軽く折り曲げる。すると思いもよらず彼女の身体が跳ねた。
「ひゃ、っなに?」
「……ここ?」
「っ♡ んぅ、なに、なになにっ怖い、」
「痛い? それとも気持ちいい?」
同じ場所をずっと指の腹で刺激し続けると、彼女は泣きそうな顔をして僕にしがみついた。息を乱しながら手を震わせている。
「い、痛くない、痛くないっ」
「痛くないならなんなの?」
「〜〜っき、気持ちいい、これっ♡ お腹っへんになる、♡ こわいっ、英智さん」
「うん、大丈夫だよ、ここにいるからね」
首にしがみついているせいで顔が見えないのが惜しまれた。彼女の頭に擦り寄りながら、内壁を擦る指を少し早める。
「は、っえ、やだ……♡ やだ、なんっなんかきちゃう、ぁ……っきゃあ!?」
空いていたほうの手で胸に触れると、彼女は思いのほか早く達してしまった。彼女はびっくりしたように目を丸くして僕を見つめる。
「……っい、ぇ、今の……? 心臓止まっちゃった、」
「っふふ、止まってないよ。たくさん動いてる」
「なに、いまのなんだったの? 頭真っ白になって、気持ちよくて、でも怖かった」
「そっか。今のはね、なんて言ったらいいのかな。イッちゃったんだよ」
「え……どこに……?」
「どことかではないけれど……男性でいうところの射精かな。気持ちよさが一定以上になったとき、一際大きいのがくるんだよ。それをイくとか絶頂するって言うんだ。女性の場合は何度でもイけるらしいし、安心していいよ」
僕がそうやって説明をすると、彼女はぽかんとしたまま小さく頷いた。多分よくわかっていないのだろう。けれど自分の手で彼女を絶頂させられたことが、僕にとっては思いのほか嬉しかった。
「ほら、一回イッちゃったからとろとろになってる」
「わ、うわっ、やだやめて」
一度指を抜き、わざと音が出るように指を出し入れする。随分ほぐれてきたようだ。今なら入るかもしれない、と思い、指を二本なかへ入れてみる。
「んぐ……」
「痛い?」
「痛くない、っもう、痛かったらちゃんと言うから」
「ふふ、ごめんね。でも不安なんだ、君がどう感じているのか逐一知っておきたい。少し奥まで入れるよ」
彼女が頷くのを見て、なかを傷つけないよう注意しながらゆっくりと指の付け根まで入れていく。試しにまた指を腹側へ折って内壁を擦ると、彼女の腰が僅かに浮いた。
「……腰が浮いちゃってるよ」
「んぇ、あ、ごめんなさい」
「僕としては、おねだりされてるみたいで嫌いじゃないけどね」
「…………み、みたい、じゃないもん」
彼女の恥ずかしがる顔が見たくてわざと意地悪を言ったのに、彼女は恥ずかしがりながらもとんでもないことを口にした。
「どういうこと?」
「だから、おねだりはしてます」
「……意味はわかってる? おねだりって、いれてほしいってことだよ?」
「もうっ、だからそう言ってる! 英智さんに入れてほしい、私ばっかり触られるんじゃなくてちゃんと、……あなたと繋がりたくて頑張ってるのに」
本当はもっと、優しく丁寧に、段階を踏んで進めていくつもりだった。けれど彼女にここまで言われて、それでもゆっくりやっていこうだなんてもう思えなかったのだ。
指を抜いて、ベッドサイドの引き出しからコンドームを取り出す。僕が下着を脱ぐと、彼女は真っ赤になって固まってしまった。
「僕だって君と早く繋がりたいよ、でも本当に、傷つけるのが怖かったんだ。でも君にそこまで言わせてしまったら、そうも言っていられないよね」
「えぁ、あの、怒った……?」
「まさか。余裕がないだけだよ、情けないことだけど。……もし君が傷ついても、ちゃんと後で労わってあげるから許してね」
「はい……」
触ってもいないのに笑っちゃうくらい勃起してしまった自分の性器にコンドームを被せる。彼女のひざ裏に手を当て、有無を言わせず脚を開かせた。そしてその小さな穴に亀頭を押し当てる。ぬ、とこじ開けるように、もしくは抉っていくように少しずつ先端がなかに入っていった。
「い、……っ」
「痛い? ごめんね」
ぎゅっと目を瞑った彼女の頬を撫でる。彼女は首を横に振り、「痛い」とだけは意地でも口にしなかった。それを言ったら僕がやめてしまうと思ったのかもしれない。
彼女が思うほど僕は紳士ではなくて、むしろ痛みを必死に耐える姿をいじらしく愛おしく感じていた。
「……っい、いまどのくらい?」
「半分の半分かな」
「うそでしょ」
「ほんと」
ぴったりと素肌をくっつけて、お互いの鼻先を擦り合わせる。彼女は睫毛を濡らして息を止めていた。
「深呼吸してごらん、我慢しないで」
「…………ふぅ、う〜……」
「うん、うん……上手だね」
重ねた胸から彼女の心音が伝わってくる。じっとりと肌が汗ばんで溶け合う。不思議とだんだん、奥へ入っていけるようになる。力が抜けたせいなのか馴染んできたからなのかはわからないけれど、とにかく一番奥のところまでなんとか入ったようだ。
「苦しい?」
彼女の額にはりつく前髪を指先でどけてやると、彼女はゆるく首を横に振って微笑んだ。
「いま、どのくらい?」
「全部入ったよ」
「良かった……」
「うん。本当に」
まだ腰を動かすことはできず、ただ愛おしさのままに彼女を抱きしめたまま腰を押し当てることしかできなかった。
本能的に、隔てられた零点零何ミリをもどかしく感じる。心臓が止まってしまいそうなくらい早くなっていく。……目の前が滲む。
「英智さん」
「……ごめん、別に悲しいわけではないんだけど」
「うん、うん、そうだね」
愛おしさとかもどかしさとか嬉しさとか幸福とか性的欲求とか、色んな感情が一気に押し寄せて頭が掻き乱される。思わず溢れた涙に一番近いのはやっぱり、幸福だった。
彼女はもうなんにも言わず、ただ僕を優しく抱きしめてくれた。格好がつかないなぁと恥じ入りつつ、素直に彼女の首すじに擦り寄って甘えてみる。
「はぁ……、生まれてきてよかった。君と出逢えて本当に……なまえ、君が僕を愛してくれて、よかった」
「うん。私も英智さんに会えてすごく幸せ、愛してるよ」
甘く囁く優しい声はまるで母親の子守唄みたいだった。もう何度目かわからないキスをして、こつんと額を合わせる。
「気を抜いたらこのまま死んじゃいそうだ」
「すぐそういうこと言う……死なないで」
彼女はそう言って、おとぎ話のプリンセスみたいに僕にキスをした。
「そうだね。とてもじゃないけど死んでる場合じゃないな、君をちゃんと満足させてあげなきゃ」
「もう満たされてはいるけど、あっ待って、」
ジッとしていた腰を一旦引いて、もう一度奥まで入れる。それをゆっくりと繰り返していけば、ちょっと余裕を取り戻していた彼女がまたいっぱいいっぱいになって僕に縋りついた。
「まってやだ、やだっ見ないで、あっ」
「大丈夫、可愛いよ」
「そっ……うじゃなくて、!」
「隠さないで、全部見せて。僕のものなんだろう?」
僕が息を乱しながらそう言うと彼女は熱に浮かされた瞳に僕をうつした。澄んだ瞳のなかには僕しかいない。白いシーツに散らばって揺れる髪の一本一本も、彼女の肌の熱さも、初めてに戸惑うその意識すらも、全部が僕だけのものだった。
「……英智さん、」
「……」
彼女は涙を滲ませながら、黙ってこちらへ両手を広げた。意図を汲んで抱き寄せると、彼女は両足も僕の腰に巻き付けてぎゅうっと僕を抱きしめてきた。
「大好き」
耳もとに甘い声がかかる。あっ、と思ったときには遅かった。もう少し我慢しようとしていたのに、うっかり達してしまったのだ。僕が腰を止めると、彼女は腕をほどいて僕の顔を覗き込んだ。
「えへへ、グッときた?」
「……君って本当に……はぁ、流石に少し悔しいな」
いたずらに笑う彼女にキスをして、ずるりと腰を引く。コンドームの口を縛ってゴミ箱に放り捨て、改めて彼女に向き直った。彼女はぐったりとシーツにくるまったまま、なんだか楽しそうにくすくす笑っていた。
「どうしたの、ニコニコして」
「ふふ、だって。英智さんの余裕のない顔なんて滅多に見られないんだもん」
「……そんなに酷い顔してた?」
「ひみつ」
彼女の隣に寝そべって頬に触れる。ただ身体を重ねただけなのに、する前と後では何かが決定的に違うような気がした。
彼女が望まないのなら別にしなくても……と思えていた頃には、多分もう戻れないのだろう。こんな幸福を味わってしまったら――彼女の愛で満たされてしまったら――もう一生彼女を手放せない。それを知ってか知らずか、彼女は心底幸せそうに笑った。