やきもちやき
「うん、じゃあこれで……あっ待って、じゃあこのセリフはこうしちゃったほうが良いんじゃ……!?」
「わははっ、じゃあここのメロディーはこっちのほうがいいな! ふんふふん……♪」
──気がつけば随分と長い時間、月永さんと打ち合わせを続けていた。予定ではとりあえず三時間と言っていたのに、ドアが開く音で我に返ると既に四時間が経過していた。部屋に入ってきた恋人の姿を見て、あっ、と口を抑える。
「わた……日々樹さんっ、お疲れ様です……」
「ええ、お疲れ様です。随分熱が入っていたようですね、おふたりとも」
「お〜っワタル! なんでいるんだ!? あっ言わないで妄想するから!」
渉はいつも通りのにこやかな表情で月永さんを見守った。私が月永さんとしていたのは、次の劇団ドラマティカの公演についての打ち合わせだった。というのも、月永さんがどうしてもミュージカルをやりたいと聞かなかったらしく、そこで脚本に抜擢されたのがたまたま私だったというわけだ。
この話が出るよりずっとずっと前から渉とは恋人関係にあった。出会いはやはり演劇関連の場だったけれど、まさか恋人の参加している団体から脚本の依頼が──しかも彼の関与なしに──私へ舞い込むとは思ってもみなかった。
そんなこんなで始まったミュージカル企画は、脚本と音楽を寸分の狂いなく調律するため、多くの打ち合わせを必要とした。私の創りたいものと月永さんの創りたいものが合致するよう、何度も脱線しかけながら話し合いを重ねてきたのだった。
今回も例に漏れず打ち合わせに熱が入り、結果、月永さんは知らないことだが私は彼とのデートの約束をすっぽかしてしまったというわけだ。
「『王さま』さん、先ほど『騎士』さんが探しておられましたよ。貴方これからラジオの収録があるのでは?」
「あっ!? まずいまずいっ、またセナに怒鳴られる! じゃあおれ行ってくる、また今度な、なまえ!」
「え!? あっ……行っちゃった」
月永さんは嵐のように去ってしまい、バタンと閉められた部屋のなかには渉と私だけがぽつんと取り残された。
「……あ〜……の、渉、その……」
ごめんね、と言おうと彼の顔を見上げたとき、突然片手で顎下を掴まれ、そのまま乱暴にキスをされた。長いキスのあと、ようやく唇を離した渉はニッコリといつものように笑ってみせる。
「脚本は進みました? 完成が待ち遠しいですね、貴女の描いた世界を私が演じられるのだと思うと楽しみでなりません」
「……ご、ごめ、ごめん……」
「おや? 何を謝っているんです?」
「待ち合わせしてたのにすっぽかして、ごめんなさい……私も楽しみだったのに、つい時間を忘れちゃって、んっ!?」
何が気に障ったのか、またしても噛みつくようなキスをされてしまう。息を乱しながら彼の瞳を覗き込むと、恐ろしいほど静かな炎を宿しているように見えた。
「謝らなくて結構ですよ。本当に、この舞台の成功を願っていますから」
「……でもやきもち妬いてるんでしょ」
彼の横髪を指先で耳にかけ、そのまま頬を撫でる。彼はやっと貼り付けたような笑みを剥がし、曖昧な顔を見せてくれた。
「そうかもしれません」
「なら謝らせて。ごめんなさい、寂しい思いをさせて。……渉のことが一番大好きだよ」
彼の額に自分の額をこつんと合わせ、小さな声で言い聞かせるように囁く。すると渉はむず痒そうに微笑んで、私の鼻の先に優しくキスをしてくれた。
「私も、なまえ、貴女を愛しています。すみません、乱暴にしてしまって……ですが他の男性といて時間を忘れてしまったなど、もう二度と言わないでください」
「はい、気をつけます」
こくんと頷いて、彼の首に抱きつく。落ち着く香りを胸いっぱいに吸い込むとつい反射的に笑ってしまった。
「では行きましょうか! 今晩はとっておきのプランを考えております☆」
「ふふ、楽しみ」
まだビルのなかだから手はつなげないけれど、二人で寄り添って歩く。隣にいる彼は相変わらずいつも通りに笑っていた。
「わははっ、じゃあここのメロディーはこっちのほうがいいな! ふんふふん……♪」
──気がつけば随分と長い時間、月永さんと打ち合わせを続けていた。予定ではとりあえず三時間と言っていたのに、ドアが開く音で我に返ると既に四時間が経過していた。部屋に入ってきた恋人の姿を見て、あっ、と口を抑える。
「わた……日々樹さんっ、お疲れ様です……」
「ええ、お疲れ様です。随分熱が入っていたようですね、おふたりとも」
「お〜っワタル! なんでいるんだ!? あっ言わないで妄想するから!」
渉はいつも通りのにこやかな表情で月永さんを見守った。私が月永さんとしていたのは、次の劇団ドラマティカの公演についての打ち合わせだった。というのも、月永さんがどうしてもミュージカルをやりたいと聞かなかったらしく、そこで脚本に抜擢されたのがたまたま私だったというわけだ。
この話が出るよりずっとずっと前から渉とは恋人関係にあった。出会いはやはり演劇関連の場だったけれど、まさか恋人の参加している団体から脚本の依頼が──しかも彼の関与なしに──私へ舞い込むとは思ってもみなかった。
そんなこんなで始まったミュージカル企画は、脚本と音楽を寸分の狂いなく調律するため、多くの打ち合わせを必要とした。私の創りたいものと月永さんの創りたいものが合致するよう、何度も脱線しかけながら話し合いを重ねてきたのだった。
今回も例に漏れず打ち合わせに熱が入り、結果、月永さんは知らないことだが私は彼とのデートの約束をすっぽかしてしまったというわけだ。
「『王さま』さん、先ほど『騎士』さんが探しておられましたよ。貴方これからラジオの収録があるのでは?」
「あっ!? まずいまずいっ、またセナに怒鳴られる! じゃあおれ行ってくる、また今度な、なまえ!」
「え!? あっ……行っちゃった」
月永さんは嵐のように去ってしまい、バタンと閉められた部屋のなかには渉と私だけがぽつんと取り残された。
「……あ〜……の、渉、その……」
ごめんね、と言おうと彼の顔を見上げたとき、突然片手で顎下を掴まれ、そのまま乱暴にキスをされた。長いキスのあと、ようやく唇を離した渉はニッコリといつものように笑ってみせる。
「脚本は進みました? 完成が待ち遠しいですね、貴女の描いた世界を私が演じられるのだと思うと楽しみでなりません」
「……ご、ごめ、ごめん……」
「おや? 何を謝っているんです?」
「待ち合わせしてたのにすっぽかして、ごめんなさい……私も楽しみだったのに、つい時間を忘れちゃって、んっ!?」
何が気に障ったのか、またしても噛みつくようなキスをされてしまう。息を乱しながら彼の瞳を覗き込むと、恐ろしいほど静かな炎を宿しているように見えた。
「謝らなくて結構ですよ。本当に、この舞台の成功を願っていますから」
「……でもやきもち妬いてるんでしょ」
彼の横髪を指先で耳にかけ、そのまま頬を撫でる。彼はやっと貼り付けたような笑みを剥がし、曖昧な顔を見せてくれた。
「そうかもしれません」
「なら謝らせて。ごめんなさい、寂しい思いをさせて。……渉のことが一番大好きだよ」
彼の額に自分の額をこつんと合わせ、小さな声で言い聞かせるように囁く。すると渉はむず痒そうに微笑んで、私の鼻の先に優しくキスをしてくれた。
「私も、なまえ、貴女を愛しています。すみません、乱暴にしてしまって……ですが他の男性といて時間を忘れてしまったなど、もう二度と言わないでください」
「はい、気をつけます」
こくんと頷いて、彼の首に抱きつく。落ち着く香りを胸いっぱいに吸い込むとつい反射的に笑ってしまった。
「では行きましょうか! 今晩はとっておきのプランを考えております☆」
「ふふ、楽しみ」
まだビルのなかだから手はつなげないけれど、二人で寄り添って歩く。隣にいる彼は相変わらずいつも通りに笑っていた。