※三人称視点



 よくある光景といえばそれまでだ。二十歳を越えたいい大人の男女が、誰にも邪魔されない自宅で酒盛りをしている。男の自宅は一般的な同年代のひとり暮らしより些か広くはあったが、気取った家具やインテリアが揃えられているわけでもなく、ふたりの間にあるのも些末な折りたたみ式のテーブルだった。

そしてそのテーブルの上にはコンビニやスーパーで買った、缶のビールやチューハイやハイボールなどが乱雑に並んである。壁にかけられた時計は間もなく零時を指すころだった。

「あ〜もう、やばい酔ったかも」

不意に彼女は残り少ない缶チューハイを軽く振りながらそう言った。その目はもう蕩けており、声色も雲のようにふわふわと宙に浮くようだった。男は彼女を見て、微かにその鋭い瞳を細める。

「耳までまっかっかじゃもん、心配になるレベルじゃぞ」
「あはは、楽しいからつい」

男は腰を上げ、缶をテーブルに置き立ち上がる。そしてキッチンへ向かうと、コップ一杯の水を用意して戻ってきた。彼女はそれを受け取り、素直に飲み干す。男は黙ってそれを見つめていた。

「……れい、?」
「うん? どうしたのじゃ?」

 彼女の手からコップが滑り落ちる。カラン、と床に転がり、間もなくして後を追うように彼女が床に倒れた。

「おっと……お〜い、大丈夫かや? うぅむ、ちょっと入れすぎちゃったかの」

男は倒れた彼女を抱き上げ、顔にかかる髪を指先でどける。そうして完全に彼女の意識がないことを確認し、すっくと立ち上がって寝室へ向かった。寝室に入ると真ん中にある広いベッドへ彼女を横たえた。まるで高価な人形を丁重に扱うかのように、彼は緊張感を持って彼女から手を放した。

 本当に陳腐なことだが、彼は彼女を心から欲していた。けれど人を愛することがあまりに不得手であるために、彼は彼女の好意にも気づかず、こうして鎖でベッドに繋いでしまったのだ。

「……これで良かったんじゃったっけ」

彼は彼女を見下ろし、言いようもない感情を胸のうちにみとめた。それは性的興奮でも達成感でもなく、むしろ後悔に似た色をしていた。今はただ、欲したものとは裏腹にある虚しさだけが彼の心を満たしていた。

その空虚を埋められる唯一は、皮肉にも彼の手によってかたく目を閉じてしまっている。