それに気がついたのは、何回目かのデートのときだった。その日は風通しのいい初夏でそう気温も高くなかったから、カフェのテラス席でテーブルを挟んで向かい合わせに座り、なんでもないような話で盛り上がっていた。

布張りの屋根の下、テラス席は日陰にはなっていたが、ウッドテーブルの端には日向ができている。それがちょうどテーブルの上に置かれた彼女の手に当たって、肌を白く輝かせていた。

 目が眩むほど綺麗だったからついついそこへ視線が引き寄せられていたのだが、ふと目線を上げると、彼女のくちびるがストローをくわえているのが目についた。

話の途中、彼女は笑った拍子にそれを噛む。つい、というふうではない。どうやらストローを噛むのがくせになっているらしかった。

「おいおい、おくちが寂しいなら言ってくれよな」
「え?」
「そんなモン噛むくらいだったら燐音くんとキスしたほうがよっぽどイイと思うぜ?」
「ああ、ストローね」

彼女はくちを離し、ストローを指で摘む。誤魔化すようにストローでグラスのなかの氷をかきまぜ、ばつが悪そうに笑った。

「ごめんね、行儀悪くて……ついくせでやっちゃうの」
「ふーん? ま、別に気にしねェけどよ。たまたま目についただけだしな」

思いのほか「ストローを噛む」ということは──というよりそれを指摘されることが──彼女にとって重大なことだったらしい。なんとなく浮かない顔になったのを見て、脚を組み替える。話題を変えるか深堀するかフォローするか、考えあぐねていると彼女のほうからくちを開いた。

「行儀悪いからやめてって、よく言われるんだけどなかなか直んないんだよね。どうしたらやめられるのかなぁ、やっぱりキスしたほうがいい?」

彼女はそう言って少しおどけてみせる。さりげなくテーブルの上にある彼女の手に自分の指を絡めて、視線を合わせた。

「別に好きなだけ噛んだらイイんじゃねェの、自分がやりたいならすりゃいい、やりたくねェならしなくていい」
「……そうかな?」
「そ〜だよ、」

ニッと笑って彼女の手を持ち上げ、その甲にキスをする。彼女は嬉しそうに微笑んで、繋いだ手の親指の腹で俺の手をそっと撫でた。

「じゃ、私も好きなときにキスしていい?」
「おう、いつでも歓迎だぜ」
「ありがと」

すると彼女は突然腰を上げて、一瞬、噛みつくようにキスをしてきた。勝ち誇ったような笑みに思わず目を奪われる。

「そろそろ出よっか」

俺は小さく「おう」と返事するだけで、もう他に気の利いたことを言ってみせることもできなかった。店を出ると入る前よりいくらか暑くなったような気がしたのは気のせいだろうか。