何度も何度もタンスやクローゼットのなかを見て、服を取り出して合わせてみては首を振り、また違うものを探す。どんな服を着ていこうか迷い始めてもう随分経ったような気がする。迷いに迷った末に選んだのは、一着のワンピースだった。

髪を整えて持ち物をチェックして、姿見の前で最終をチェックを終えたらお気に入りのサンダルを履いてドアを開ける。すると、思わず目を刺すほど眩しい青空が広がった。今日は雲ひとつない快晴だ。

 軽い足取りで街を歩いて駅前に向かう。こうして丸一日のデートの約束をするのはなんだかちょっと久しぶりのことのように思えた。わくわくして約束の時間より十五分も早く着いたのに、そこにはそわそわしながら私を待つひなたくんの姿があった。驚いて駆け寄ると、ひなたくんが私を見つけて手を振る。

「もう、早いよ〜……いつからいたの?」
「あはは、俺も今来たところ! 寮にいてもそわそわしちゃって落ち着かないから早めに来ちゃったんだ」

今来たなんて絶対うそだ、と内心では思いつつ、笑って「そっか」と返事をした。私がちらりと彼の手を見ると、察したのかすぐに手を繋いでくれた。そしてにっこり笑って今日の予定について話す。

「今日はね〜、王道デート大作戦! ってことで、まずはカフェでモーニング食べてからウィンドウショッピングなんてどう?」
「うん、良いね」
「よしっ、じゃあ近くの穴場カフェにご案内〜♪」

 ひなたくんは歌うようにそう言うと、私の手をひいて歩きだした。爽やかな朝の空気のなか、最近あったなんでもないようなエピソードをお互い話しながらカフェへ向かう。寮でのこと、学院でのこと、お仕事でのこと、ゆうたくんとのこと……ひなたくんは楽しそうに色々なことを話してくれた。

 二十分弱歩いたころ、ようやく目的のカフェに辿り着いた。穴場というだけあってなんだか隠れ家的な、オシャレな雰囲気のする小さなお店だった。ひなたくんがドアを押すと、カランカランとドアベルの軽やかな音が鳴る。これまたオシャレな感じの店員さんに案内され、二人がけのテーブルについた。

「わっ、見てこのパンケーキ。美味しそうだなぁ」

メニューを開くなり、ひなたくんはモーニングセットよりパンケーキの写真に反応する。きつね色の表面と厚みのある生地は確かに食欲をそそるものがあった。

「わ、ほんとだ。美味しそう……でも朝ごはん食べに来たんだよね?」
「うぐ……そうです。モーニングセット、どれにする?」
「私は……うーん、Aセットかな。ドリンクはアイスカフェラテで」

選んだのは、トーストとサラダとスクランブルエッグにドリンクがついたセットだった。ひなたくんはメニューとにらめっこしたあと、「俺も同じの!」と言って店員さんを呼んだ。

 小さなカフェにはお客さんが私たちを含めて二、三組しかいなくて、ずっとどこの国のものかわからない音楽がゆるやかに流れていた。料理を待つ間、向かい合ってさっきの話の続きを話していると、ひなたくんが不意に私の手を指でつついた。

なんだかいたずらっぽい笑みを浮かべているものだから、私も応戦してひなたくんの手を人差し指でつつく。そんな感じで何の意味もない手遊びをしたり、そこから発展してお互いの頬をつついたりして、私たちは子どもみたいにはしゃいでいた。

 カフェで朝食を終えたら、近くの繁華街に移動して服屋さんやアクセサリーショップ、ペットショップに雑貨屋さんなど色々なお店を見て回った。そのなかでふと目についた雑貨屋さんにふたりで入ってみる。食器やカトラリー、インテリアからバッグや筆記用具、日用品まで、色々なものが置いてあった。

「見て見て、これ。お揃いのマグカップ」

ひなたくんが目をつけたのは、並べるとハート柄が完成するデザインの可愛らしいマグカップだった。

「わ、可愛いね。ゆうたくんとお揃いにしてみたら?」

私がほとんど何も考えずにそう言うと、ひなたくんはむっと拗ねてくちびるを尖らせる。

「ハート型なんだから、お揃いにするとしたら兄弟じゃなくて恋人とするでしょ」
「あ……そ、そっか。そうだよね……」

思いがけず「恋人」と改めて言われたのが嬉しくて、ついつい赤くなって目を逸らしてしまう。ひなたくんはマグカップを持ったまま、明るい声色に戻って私の顔を覗き込む。

「お詫びにお揃いにしてよ、良いよね? 片方、家に置いててほしいな」
「うん、いいよ。……いいよっていうか、嬉しい」
「良かった、俺も嬉しい」

ひなたくんはニコッと満面の笑みを浮かべて、早速マグカップをレジに持って行ってしまった。半分出すよって何回か言ったのに、「俺が言い出したことだから」とか「じゃあまた今度お揃いのもの買うときはお願い」と上手いこと言われて、結局買ってもらう形になってしまう。

 雑貨屋さんを出たあと服屋さんでお互いの服を見繕ったり、ペットショップの店頭にいる子犬や子猫に悶えたりして、あっという間にお昼になった。お昼ご飯は、たまたま歩いた先で見つけたイタリアンのお店で済ませた。パスタを食べながら、向かい合ったひなたくんの顔を見てちょっと笑ってしまう。

「どしたの?」
「ううん、まだお昼なのにはしゃぎすぎたかもなって。もう丸一日遊んだくらいの感じがする」
「それは俺もちょっと思ってた。歩くのもちょっと疲れてきたし……お昼食べ終わったら、次は映画でも観る?」
「良いね、そうしよっか」

お腹が満たされると、少し疲れてきていた体もかなり回復した。食事を終えて外に出てみたら、やっぱり空はどこまでも青く広がっていた。また手を繋いで、今度は映画館へ向かう。

 映画は最近話題になっている有名な映画監督の洋画を選んだ。映画の最後、主人公とヒロインがキスをするシーンで、ひなたくんは不意に私の手を握った。どんな顔をしているかはわからなかったけれど、触れた手のひらが熱かったから私も黙ってその手を握り返した。

「っは〜、面白かった!」
「ね。最後ちょっと泣いちゃった」

ふたりして感想を言いながら映画館を出ると、太陽が傾いて空を薄くオレンジ色に染めていた。ふとひなたくんが私の手に触れて、指を絡める。

「……何してても楽しいから、ちょっと困っちゃうかも」
「困るの?」
「だって楽しいと時間があっという間なんだもん」
「確かに」

ひなたくんの可愛い言い分にくすくす笑ってから、ちゃんと手を繋ぎ直す。顔を上げてひなたくんを見ると、ひなたくんもこちらを見つめ返してくれた。

「どうせあっという間なら、めいっぱい楽しんでちゃんと脳みそに刻んでおかなきゃね」

私がそう言って笑うと、ひなたくんもくすりと微笑む。そしてぎゅっとつないだ手に力をこめて、跳ねるような声を出した。

「確かにっ、じゃあラストスパートもテンション上げていくよ!」
「あはは、ライブみたい」

 宣言通り、夕ご飯までまた街をぶらぶらしながらはしゃぎ回って、夕ご飯を終えても人のいない公園で遊んだりと本当に丸一日くたくたになるまで全力で楽しんだ。そしてひなたくんの言った通り、そんな時間はあっという間だった。

けれど解散して家に帰っても、そんなに寂しさに苛まれることはなかった。十分きちんと彼を満喫したという自覚もあったし、何よりお揃いで買ったマグカップがそこに佇んでいたから。