秘密
⚠️ズ!時空
⚠️夢主=転校生
それは金曜日のお昼休み、少し用事を思い出したので図書室へ向かったときのことでした。その日は少し雨模様で、なんだかジメッとした空気が漂っていました。図書室へ入ると、当然ながらそこには誰もいなくて、ただ穏やかな沈黙だけが広い部屋の中を満たしています。いつもどおりの本の香りにホッと安堵し、早速用事に取りかかりました。
用事と言ってもそんな大層なものではなくて、ただ、暇なときで良いからある本を探してもし見つけたら貸してほしいと零くんに頼まれていただけです。指定された本というのは一冊の外国文学作品でした。思い当たる棚を探してみようと図書室のなかを歩き始めてから、ふと、何か幽かな気配がするのに気が付きました。
立ち止まって耳を澄ましてみると…………ちいさな呼吸の音が聞こえるような気がしました。でも聞こえたというには不確かで、その音より自分の呼吸や心臓の音のほうがよっぽど大きかったので、いまいち確信を持てませんでした。
やっぱり気のせいかと思い、また本探しに戻りました。そして隣の棚へ移動したとき、初めて気配の正体に気がついたんです。
「わっ、……」
思わず声を上げそうになって、慌てて口もとを手で抑えました。そこにいたのは、薄手のブランケットにくるまって胎児のように眠るなまえさんでした。
彼女はちょうど本棚の影になっているところで小さくなって眠っていました。そろそろと近づくと、確かに先ほど聞こえた寝息が聞こえてきます。けれどその顔色は死人のように青白く、気まぐれで眠りこけているわけではないのは明白でした。
……とはいえ、こんな硬い床のうえで眠っていて良いことなんてひとつもありません。少し迷って、せめて少しでも身体が楽になるようにと彼女の小さな頭を少し上げさせ、自分のひざを床と頭の間にさしこみました。
雨がぱたぱたと窓ガラスをうつ音を聞きながら、ずいぶん長い間じっとしていました。お昼休みが終わっても彼女は起きませんでしたが、無理には起こさず見守っていました。するとお昼休みが終わって二十分ほど経ったころ、彼女がふと目を覚まして寝返りを打ちました。
「ん……?」
「おはようございます、なまえさん」
「……青葉先輩、なんで……?」
彼女はまだ覚醒しきってないような眠たげな瞳で俺を見て、甘えるような声を出しました。その頭を撫でてやると、やっと目が覚めてきたらしく身体を起こして目を擦り恥ずかしそうに顔を赤くしました。
「ふふ、こんなところで眠っていたら風邪ひいちゃいますよ。それより、体調はどうですか?」
「あ……と、平気です」
「なら良いですけど……顔色が悪いですよ。その……言いたくなければ良いんですけど、保健室じゃダメだったんですか?」
気になっていたことを尋ねてみると、彼女は髪を手で整えながら困ったように笑いました。その顔色はまだやっぱり青ざめていて、もう平気だとはとても思えませんでした。
「保健室行くって言うと、心配かけちゃうので……やらなきゃいけないことがあるからって言って来たんです。ここなら誰にも見つからないと思って」
「そうですか……。じゃあもし次があったら、せめて向こうのカウンターの奥にあるソファを使ってください。硬い床よりは良いと思いますから」
俺がそう言って彼女の跳ねた横髪を手で整えると、彼女はなんだか落ち着かないようすで視線を逸らしました。そしてさくらんぼのようなふっくらとした唇を開いて、「ありがとうございます」と小さくお礼を言ってくれました。
「どういたしまして。あぁ、安心してください、誰にも言いませんから。……ふたりだけの秘密ですね♪」
誰もいない図書室で発した小さな囁きは、ふたりの鼓膜にだけ届き、あとは雨音に掻き消されてしまいました。……そのことがなんだか嬉しく感じた気がしたのは、どうしてだったんでしょうか。
⚠️夢主=転校生
それは金曜日のお昼休み、少し用事を思い出したので図書室へ向かったときのことでした。その日は少し雨模様で、なんだかジメッとした空気が漂っていました。図書室へ入ると、当然ながらそこには誰もいなくて、ただ穏やかな沈黙だけが広い部屋の中を満たしています。いつもどおりの本の香りにホッと安堵し、早速用事に取りかかりました。
用事と言ってもそんな大層なものではなくて、ただ、暇なときで良いからある本を探してもし見つけたら貸してほしいと零くんに頼まれていただけです。指定された本というのは一冊の外国文学作品でした。思い当たる棚を探してみようと図書室のなかを歩き始めてから、ふと、何か幽かな気配がするのに気が付きました。
立ち止まって耳を澄ましてみると…………ちいさな呼吸の音が聞こえるような気がしました。でも聞こえたというには不確かで、その音より自分の呼吸や心臓の音のほうがよっぽど大きかったので、いまいち確信を持てませんでした。
やっぱり気のせいかと思い、また本探しに戻りました。そして隣の棚へ移動したとき、初めて気配の正体に気がついたんです。
「わっ、……」
思わず声を上げそうになって、慌てて口もとを手で抑えました。そこにいたのは、薄手のブランケットにくるまって胎児のように眠るなまえさんでした。
彼女はちょうど本棚の影になっているところで小さくなって眠っていました。そろそろと近づくと、確かに先ほど聞こえた寝息が聞こえてきます。けれどその顔色は死人のように青白く、気まぐれで眠りこけているわけではないのは明白でした。
……とはいえ、こんな硬い床のうえで眠っていて良いことなんてひとつもありません。少し迷って、せめて少しでも身体が楽になるようにと彼女の小さな頭を少し上げさせ、自分のひざを床と頭の間にさしこみました。
雨がぱたぱたと窓ガラスをうつ音を聞きながら、ずいぶん長い間じっとしていました。お昼休みが終わっても彼女は起きませんでしたが、無理には起こさず見守っていました。するとお昼休みが終わって二十分ほど経ったころ、彼女がふと目を覚まして寝返りを打ちました。
「ん……?」
「おはようございます、なまえさん」
「……青葉先輩、なんで……?」
彼女はまだ覚醒しきってないような眠たげな瞳で俺を見て、甘えるような声を出しました。その頭を撫でてやると、やっと目が覚めてきたらしく身体を起こして目を擦り恥ずかしそうに顔を赤くしました。
「ふふ、こんなところで眠っていたら風邪ひいちゃいますよ。それより、体調はどうですか?」
「あ……と、平気です」
「なら良いですけど……顔色が悪いですよ。その……言いたくなければ良いんですけど、保健室じゃダメだったんですか?」
気になっていたことを尋ねてみると、彼女は髪を手で整えながら困ったように笑いました。その顔色はまだやっぱり青ざめていて、もう平気だとはとても思えませんでした。
「保健室行くって言うと、心配かけちゃうので……やらなきゃいけないことがあるからって言って来たんです。ここなら誰にも見つからないと思って」
「そうですか……。じゃあもし次があったら、せめて向こうのカウンターの奥にあるソファを使ってください。硬い床よりは良いと思いますから」
俺がそう言って彼女の跳ねた横髪を手で整えると、彼女はなんだか落ち着かないようすで視線を逸らしました。そしてさくらんぼのようなふっくらとした唇を開いて、「ありがとうございます」と小さくお礼を言ってくれました。
「どういたしまして。あぁ、安心してください、誰にも言いませんから。……ふたりだけの秘密ですね♪」
誰もいない図書室で発した小さな囁きは、ふたりの鼓膜にだけ届き、あとは雨音に掻き消されてしまいました。……そのことがなんだか嬉しく感じた気がしたのは、どうしてだったんでしょうか。