「あ〜〜」

お風呂あがり、扇風機にあたりながら気の抜けた声を出す。最近はなんだか急に暑くなってきて、お風呂からあがるといつもこうして扇風機で涼んでいる。冷房をつけるほどでもないので、こうして風にあたっているくらいが気持ちいいのだ。

 私がボーッとしていると、不意にテーブルのうえのスマホがブーッと震えた。見れば、恋人から「今から行っていい?」というメッセージがきている。「いいよ」と返すとすぐに既読がついた。泊まっていくのかな、とわくわくしながら軽く部屋を片していると、彼は三十分もしないうちに私の部屋のインターホンを鳴らした。

「えっ、早! はぁい!」

ぱたぱたと玄関に向かい、鍵を開ける。泉くんは私をてっぺんからつま先まで見るなり、なんとも呆れたような顔をした。しかしすぐには何も言わず、靴を脱いで部屋に上がると後ろ手にドアを鍵まで閉めた。

「……お風呂入ってたの? ついさっき?」
「うん、泉くんから連絡がくる前にちょうど上がったの」

一緒に奥の部屋まで歩き、私はさっきと同じように扇風機の前に座る。しかし泉くんはありえないと言いたげに顔を顰めて私を見下ろした。

「ってことはもう三十分以上経ってるってこと? 言ったよねぇ、お風呂済ませたらなるべく早く髪は乾かせって!」
「えっ待って待って、扇風機の前にいたから! セーフ!」
「ハァ!? セーフなわけないでしょ!?」

どうやら余計なことを言って火をつけてしまったらしい、私はしょんぼりと肩を落として正座をし、反省モードに入った。

「ごめんなさい……めんどくさくて……」
「…………ったく、も〜……」

泉くんは洗面所からドライヤーと櫛を持ってくると、コンセントを繋いで私の背後に回った。そして何も言わず私の髪を乾かし始める。ドライヤーの音で会話はできなかったけれど、彼が丁寧に髪をといてくれているのが伝わってきた。

髪は少しずつ水気を失っていく。それでも乾燥して広がったりしないのだから不思議だ。何かやり方があるんだろうか。教えてもらっても多分自分ではやらないだろうけど。

 しばらく黙って彼に身を任せていると、十分ほど経ったころようやくドライヤーが役目を終えた。

「はい終わり、このくらい自分でちゃんとやってよねぇ?」
「ん〜……ありがと」

振り返ってみれば、案外機嫌のよさそうな泉くんと目が合った。怒られるつもりでいた私がきょとんと彼を見つめていると、彼はくすりと微笑んで私の頭を撫でた。

「どうしてもできないって言うんなら、毎日俺がしてあげようか」

冗談とも本気とも取れない声色でそう言われて、私は思わず顔を赤くしてしまう。そして一縷の望みにかけて、甘えるように恐る恐るおねだりをしてみた。

「できない、かも……」

すると泉くんは一瞬目を丸くしたけれど、
「なに言ってんの」
と軽くあしらわれてしまった。

でもそのときの眼差しがあんまり優しいものだったから、ひょっとしてまったく望みがないわけでもないのかもしれない。とりあえず、今後も彼がくるときは杜撰な自分でいようと決意するのだった。