狡猾な男
⚠️俺零×幼馴染み夢主です
幼い頃から何かにつけて一緒に遊ぶ奴がいる。幼馴染みというのが一番当てはまるのだが、そういう呼び方をすると完全に恋愛対象から外れてしまうような気がしてあまりそう思わないようにしていた。俺の初恋も今想いを寄せているのもずっと彼女だから、家族のようとも言いにくいし、ただの幼馴染みとも言いにくい。
それはともかくとして、幼い頃から彼女の近くにいてひとつ気づいたことがある。それは彼女がちょっとありえないくらい流されやすいということだ。
環境に恵まれたのか──はたまた俺が悪い虫を徹底的に排除したからなのか──悪意に晒されるという経験が異様に少ない彼女は無垢なまま育ってしまったらしく、俺が何か適当に言いくるめようとするといつも呆気なく「それもそうだね」と笑い返してくる。
一応そのたびに苦言は呈すものの、きっと彼女は未だ理解していないだろう。俺の心がどんなに醜いのか。
ある日、彼女に相談があると言われ、放課後彼女の家を訪れた。家には他の家族がいないらしかったが、彼女は特に何も気にせずいつも通り俺を部屋に案内した。
彼女の部屋に入るとベッドと勉強机があって、その間には小さな折り畳み式のミニテーブルがちょこんと置いてある。彼女はまたしてもいつも通り、自分のベッドの縁に腰を下ろした。一瞬迷ってから、俺も彼女の隣に腰掛ける。
「ンで? なんだよ相談って。恋バナか?」
「え〜恋バナ……です」
ちょっとからかって言ってみただけだったのに、思いもよらず肯定され心臓が一瞬止まりかける。告白だったら良いのにと思う反面、もし好きな男ができたとかだったらどうしようと思う気持ちもあり、とにかく何の感情も表に出さないように俺は黙って彼女の話を聞くことにした。
「あの……ね、友だちがね……彼氏ができたんだって。それで今まで結構一緒に遊んでたのに遊べない日が増えちゃって……仲のいい子、最近みんな恋人つくっちゃったからちょっとやだ」
「ん? うん……うん? そか。それで?」
「それ……それで。寂しいし置いてけぼりなのやだから、私も恋人欲しいなって思うんだけど」
「うん」
ここまで聞けば、だから付き合ってみないか、と、続く可能性のほうが高いと思うのが普通だろう。ドッドッと速まる期待をなんとか抑え込んで、ちょっと恥ずかしそうな表情の彼女を見つめる。
「こういうの改めて言うの恥ずかしいんだけど……あのね、零って……好きな人いる? どうやったら好きな人ってできるのかな、私もまずは好きな人をつくってみたいの! なんかこう、私が好きになりそうな人とか知ってたりしない?」
真剣な表情と素っ頓狂な問いかけに思わず重いため息をついて頭を抱える。告白でもなんでもなかったことに多少ショックを受けつつ、しかしこれは好機だと思い顔を上げて彼女を見た。ベッドに置かれた手のひらにさりげなく自分の手を重ね、距離を縮める。
「わかってなかったのかよ、お前が好きなのはずっと前から俺様ちゃんだろ?」
「うん……? そうなの?」
「そ〜だよ、こうやって何か相談事があるときにさ、一番最初に誰が浮かぶ? 俺だったんだろ?」
「た、確かに……!」
彼女はハッと真理に気がついたような反応をし、俺を見つめ返す。すかさずそこへ畳み掛けるように言葉を重ねた。
「逆に考えてもみろよ、こ〜やって相談に乗ったりバカみて〜に一緒にはしゃいで遊んだりできる男が俺のほかにいんのか? いね〜だろ、つうかいらね〜だろ。俺がいんだからよ」
「……でも零のこと好きなのって、恋愛とかの好きなのかな? 友だちはすごくドキドキして気持ちもふわふわするって言ってたよ」
「ドキドキっつ〜のは知り合って間もないからこそなんだよ、お前、夫婦がいちいちドキドキなんかしね〜だろ。お互いのことが好きで愛し合ってるけどもう一緒にいるのが当たり前だからドキドキしね〜んだよ」
「そっか……そうだよね。もう十年以上一緒にいるもんね……」
我ながら、ぺらぺらとよくもまぁ適当なことが言えるものだ。実際には手を重ねただけで破裂しそうなほど心臓が煩く動いているくせに、目の前のチャンスを逃すまいと必死になって彼女を言いくるめようとしている。
彼女が少し考え込むような素振りを見せたので、ここで絶対にオトすという覚悟を決めて彼女の頬に手を当てた。そしてそのまま触れるだけのキスをする。すると彼女は目を丸くして数秒ポカンと俺を見つめたあと、耳まで真っ赤にして固まってしまった。
「……まぁ、ドキドキしたいってんならさせてやるけどな」
「や、いい、大丈夫……。そっか、私、零のこと好きだったんだ……知らなかった」
「おう、ちゃんと周りに言っとけよ、イケメンで完璧な彼氏がいますってな」
「零、私の彼氏だったの?」
「ちげ〜よ今からだよこのバカ」
相変わらず危機感も何もない彼女の額を小突く。どうやら完全に言いくるめることができたらしい、彼女は頬を染めたまま照れくさそうに俺を見上げた。
「そっか……じゃあ、改めてよろしくお願いします」
「……おう、よろしく」
嬉しそうに笑った彼女の無邪気さに少し心が痛む。結局のところ、彼女が本当に俺へ恋愛的な好意を抱いていたのかどうかなんてわからない。彼女は多分恋なんて少しも知らなかったのだ。それを無理やり上塗りして恋という名前をつけたのは俺の狡猾さだ。それでも、これだけ不誠実な真似をしてでも、俺は彼女が欲しかった。これを恋というにはあまりに汚すぎるだろうか。
幼い頃から何かにつけて一緒に遊ぶ奴がいる。幼馴染みというのが一番当てはまるのだが、そういう呼び方をすると完全に恋愛対象から外れてしまうような気がしてあまりそう思わないようにしていた。俺の初恋も今想いを寄せているのもずっと彼女だから、家族のようとも言いにくいし、ただの幼馴染みとも言いにくい。
それはともかくとして、幼い頃から彼女の近くにいてひとつ気づいたことがある。それは彼女がちょっとありえないくらい流されやすいということだ。
環境に恵まれたのか──はたまた俺が悪い虫を徹底的に排除したからなのか──悪意に晒されるという経験が異様に少ない彼女は無垢なまま育ってしまったらしく、俺が何か適当に言いくるめようとするといつも呆気なく「それもそうだね」と笑い返してくる。
一応そのたびに苦言は呈すものの、きっと彼女は未だ理解していないだろう。俺の心がどんなに醜いのか。
ある日、彼女に相談があると言われ、放課後彼女の家を訪れた。家には他の家族がいないらしかったが、彼女は特に何も気にせずいつも通り俺を部屋に案内した。
彼女の部屋に入るとベッドと勉強机があって、その間には小さな折り畳み式のミニテーブルがちょこんと置いてある。彼女はまたしてもいつも通り、自分のベッドの縁に腰を下ろした。一瞬迷ってから、俺も彼女の隣に腰掛ける。
「ンで? なんだよ相談って。恋バナか?」
「え〜恋バナ……です」
ちょっとからかって言ってみただけだったのに、思いもよらず肯定され心臓が一瞬止まりかける。告白だったら良いのにと思う反面、もし好きな男ができたとかだったらどうしようと思う気持ちもあり、とにかく何の感情も表に出さないように俺は黙って彼女の話を聞くことにした。
「あの……ね、友だちがね……彼氏ができたんだって。それで今まで結構一緒に遊んでたのに遊べない日が増えちゃって……仲のいい子、最近みんな恋人つくっちゃったからちょっとやだ」
「ん? うん……うん? そか。それで?」
「それ……それで。寂しいし置いてけぼりなのやだから、私も恋人欲しいなって思うんだけど」
「うん」
ここまで聞けば、だから付き合ってみないか、と、続く可能性のほうが高いと思うのが普通だろう。ドッドッと速まる期待をなんとか抑え込んで、ちょっと恥ずかしそうな表情の彼女を見つめる。
「こういうの改めて言うの恥ずかしいんだけど……あのね、零って……好きな人いる? どうやったら好きな人ってできるのかな、私もまずは好きな人をつくってみたいの! なんかこう、私が好きになりそうな人とか知ってたりしない?」
真剣な表情と素っ頓狂な問いかけに思わず重いため息をついて頭を抱える。告白でもなんでもなかったことに多少ショックを受けつつ、しかしこれは好機だと思い顔を上げて彼女を見た。ベッドに置かれた手のひらにさりげなく自分の手を重ね、距離を縮める。
「わかってなかったのかよ、お前が好きなのはずっと前から俺様ちゃんだろ?」
「うん……? そうなの?」
「そ〜だよ、こうやって何か相談事があるときにさ、一番最初に誰が浮かぶ? 俺だったんだろ?」
「た、確かに……!」
彼女はハッと真理に気がついたような反応をし、俺を見つめ返す。すかさずそこへ畳み掛けるように言葉を重ねた。
「逆に考えてもみろよ、こ〜やって相談に乗ったりバカみて〜に一緒にはしゃいで遊んだりできる男が俺のほかにいんのか? いね〜だろ、つうかいらね〜だろ。俺がいんだからよ」
「……でも零のこと好きなのって、恋愛とかの好きなのかな? 友だちはすごくドキドキして気持ちもふわふわするって言ってたよ」
「ドキドキっつ〜のは知り合って間もないからこそなんだよ、お前、夫婦がいちいちドキドキなんかしね〜だろ。お互いのことが好きで愛し合ってるけどもう一緒にいるのが当たり前だからドキドキしね〜んだよ」
「そっか……そうだよね。もう十年以上一緒にいるもんね……」
我ながら、ぺらぺらとよくもまぁ適当なことが言えるものだ。実際には手を重ねただけで破裂しそうなほど心臓が煩く動いているくせに、目の前のチャンスを逃すまいと必死になって彼女を言いくるめようとしている。
彼女が少し考え込むような素振りを見せたので、ここで絶対にオトすという覚悟を決めて彼女の頬に手を当てた。そしてそのまま触れるだけのキスをする。すると彼女は目を丸くして数秒ポカンと俺を見つめたあと、耳まで真っ赤にして固まってしまった。
「……まぁ、ドキドキしたいってんならさせてやるけどな」
「や、いい、大丈夫……。そっか、私、零のこと好きだったんだ……知らなかった」
「おう、ちゃんと周りに言っとけよ、イケメンで完璧な彼氏がいますってな」
「零、私の彼氏だったの?」
「ちげ〜よ今からだよこのバカ」
相変わらず危機感も何もない彼女の額を小突く。どうやら完全に言いくるめることができたらしい、彼女は頬を染めたまま照れくさそうに俺を見上げた。
「そっか……じゃあ、改めてよろしくお願いします」
「……おう、よろしく」
嬉しそうに笑った彼女の無邪気さに少し心が痛む。結局のところ、彼女が本当に俺へ恋愛的な好意を抱いていたのかどうかなんてわからない。彼女は多分恋なんて少しも知らなかったのだ。それを無理やり上塗りして恋という名前をつけたのは俺の狡猾さだ。それでも、これだけ不誠実な真似をしてでも、俺は彼女が欲しかった。これを恋というにはあまりに汚すぎるだろうか。