ショップで目を輝かせていたのでこっそり買ってやったのは、確かに俺の方だった。デカくて手触りの良いイルカのぬいぐるみを受け取ったとき、彼女は本当に嬉しそうに笑って俺にキスまでしてくれたのだ。そのあともずっとご機嫌でイルカを抱えていたが、まさかこんなことになるとは思っていなかった。

 ベッドに転がる彼女と、その腕のなかに抱き締められたイルカのぬいぐるみを見下ろしてムッとくちびるを尖らせる。同棲を始めたばかりのころ、彼女が「ずっとぬいぐるみをだっこして寝てたから、抱きついちゃうかも。ごめんね」なんて可愛いことを言っていたのを思い出す。

腕が落ち着かないとかなんとかで彼女は実際よく俺に抱きついてきてくれていた。それがぽっと出のイルカなんぞに奪われるのは我慢ならない。

「あの〜、なまえや、イルカさんはリビングに置いておかんかえ?」

なまえの隣に寝そべってそう言うと、彼女は不思議そうな目で俺を見た。

「どうして?」
「うむ……ええとその、ほら、大きいし邪魔じゃろ」
「そんなことないよ。抱き心地もいいし」
「しかし、う〜ん……」

なんとか彼女を言いくるめてしまおうとするものの、いまいち上手くいかない。こんなことなら買わなければよかった……とひとりでしょんぼりしながらため息をついた。

「そんなイルカさんより零ちゃんのほうが抱き心地が良いと思うんじゃけど」
「それはない。零よりイルカちゃんのほうが柔らかくて気持ちいいよ」
「う、別の気持ちいいなら零ちゃんのほうが上手いもん……」
「どういうこと……?」

 彼女はくすくす笑って、仕方なさそうにイルカのぬいぐるみをベッドの隅に置いた。そして俺の方へ身体を寄せ、脚を絡めてぎゅっと抱き締めてくる。

「うん、やっぱり零のほうが硬い」
「むぅ……でもずっとぎゅってしてくれないと寂しいのじゃ」
「はいはい、わかったわかった。ぎゅってしててあげるから」

ぽんぽんと背中を撫でて胸もとに擦り寄る彼女を見て満足し、両手で彼女の細っこい身体を抱き返した。落ち着く香りの髪に擦り寄って彼女の頭にぐりぐりと頭を押し付けると、彼女はまた笑って俺の後頭部を撫でてくれた。

「イルカちゃん、買ってくれてありがとね。大事にする」
「零ちゃんのほうを大事にしておくれ」
「そんなの当たり前でしょ」
「うむ……そうじゃな」

 ちゅう、とつむじにキスをして、ベッドの隅に佇むイルカのぬいぐるみを見る。ふん、と勝ち誇った顔をしてみせたが、当然ながらイルカは表情ひとつ変えず静かに寝そべっているだけだった。

翌朝目を覚ますと彼女が俺に背を向けてイルカを抱き締めていたので、無理やり引き剥がして彼女を腕のなかにおさめ、イルカはベッドサイドのテーブルに置くことにした。