「……どうせ薫さんのほうが好きなんでしょ」

 酔いが回って目の据わった彼女は不意にそんなことをこぼした。突然のことながら、考えてみてもいまいちどういう意味なのかわからず首を傾げてみる。

「ええと、なんでいきなり薫くんなんじゃ?」
「二枚看板二枚看板って、距離の近い写真いっぱい撮って……ライブでもずっと近いし、髪型おろそだし、ファンにも零薫とか薫零とかめちゃくちゃ言われてるもん。いいよ、だって薫さんかっこいいもんね、そりゃ好きになっちゃうよね……」

ぐちぐちと管を巻く彼女の言い分を聞き、それがあまりにふわふわした独占欲と嫉妬なので可愛くて笑ってしまった。ドラマで共演した女優なんかにはそう妬かないくせに、男の薫くんにはやきもちをやいてしまうらしい。

「うぅむ、しかし薫くんは男の子で相棒じゃよ? 恋人のおぬしと比較するのはどうなんじゃろう」
「ほら、相棒! 相棒!? 相棒ってなに、恋人よりよっぽど仲良しじゃん、別れたりしないじゃん、二人でひとつってこと? むかつく……!」

どうやら地雷を踏み抜いてしまったらしい、彼女は悔しそうに顔をゆがめてそんなことを話したあと、ごつんとテーブルに額を当てて頭を突っ伏した。

「くやし〜、絶対、絶対私のほうが零のこと好きなのに」
「んふ……っ、ほうほう、いやしかし案外薫くんも我輩のこと大好きかもしれぬぞい」
「じゃあ私はその十倍、いや百倍すきだもん」
「そうかのう?」
「そうだよ!」

途中からスマホで録音しながら、わざと彼女を煽るようなことを言ってみる。彼女はふにゃふにゃの口調で必死に自分がどれだけ俺のことを好きなのかについて説明を試みた。その様子があまりに愛おしくて胸がギュンと締め付けられる。

「あのねぇ、零の好きなところなんか死ぬほどあるから、私。顔についてだけで百個くらいはよゆーであるから」
「そんなに我輩の顔好きなの?」
「顔だけじゃないの、部位ごとに百個ずつはあるの」
「ほほう、それは興味深いのう」

彼女は腕を枕にして顎を乗せ、不機嫌そうな顔を上げて俺を見据える。その瞳はジッと俺の細部に至るまでを観察しているようにも見えた。

「……でも外だけじゃないの、当たり前だけど、中身もすき……中身ってモツじゃなくて性格……」
「モツて」
「零はね、零はかしこいけどバカなんだよ、たまに本気でバカなの。ムカつくこともしてくるしデリカシーもないし最悪なの」
「え…………」

思わぬ批判にぐさぐさと心をやられ、一瞬録音をやめそうになる。しかし俺がわざと悲しい表情をすると、彼女はにへと笑って口を開いたのだった。

「でもねぇ、そういうとこも全部含めてすきって思うの。零のこと、理屈もあるけど理屈なしにもすきなんだよ。だから私が一番零のことすきなの」
「待って我輩泣きそう、これもしかしてプロポーズかえ?」
「違います」

ぴしゃりと訂正されはするものの、彼女が紡ぐ言葉は全て愛に満ち溢れていた。ちょっと感動して目頭が熱くなっている俺をよそに、彼女は缶チューハイのプルタブを開けた。

「これこれ、ちょっと飲みすぎじゃよ」
「あっ泥棒」
「誰が泥棒じゃ、ほれこっちを飲むのじゃ」

 水のペットボトルを渡して缶チューハイを取り上げる。彼女は不満そうにしつつも水をごくごくと飲み、長い溜め息をついてまた机に突っ伏した。そして数分と経たないうちにすやすやと寝息を立て始めてしまった。

「……あれ、寝ちゃったのかえ?」
「んんぅ」
「まったく……仕方ないのう」

よしよしと頭を撫で、そっと彼女の身体を抱き上げる。ベッドまで運び、ぐっすり眠っている彼女の唇へキスを落としてから隣にもぐりこんだ。

 こんなにも可愛らしく健気な本音を聞けるのなら、今後とも彼女に酒を勧める日を設けていきたいところだ。後日、たまたま彼女と出会した薫くんが「なんかすごい敵視されてるんだけど」とこぼしていたが、それはまた別の話だ。