据え膳食わぬは
同棲を始めて一ヶ月、朝から晩まで新しい発見ばかりの毎日だ。目が覚めると隣に彼女がいて、家に帰ると優しい笑顔で迎えてくれる。これからはこういう穏やかで幸せな日々が続くばかりだと思っていたのだが、最近少し気になることが出てきた。それは俺が帰宅すると決まってドタバタと何かを慌てて隠すような素振りを見せることだった。
別に浮気を疑っているわけではないが、こうも毎日だと流石に気になってしまう。ということで今日は帰る連絡をせずいきなりそうっと静かに帰宅することにした。鍵を回してそっとドアを開けて中に入る。ただいまは言わずに靴を脱いでリビングへ向かうと、そこには思いもよらぬ彼女の姿があった。
「……おぬし何て格好しとるんじゃ!」
「きゃあ!? わっ、えっいつのまに!?」
彼女はまだ少し濡れた髪のまま、下着だけ穿いて肩からバスタオルをかけ、ほぼ全裸みたいな格好でソファに寝そべっていた。そのリラックスしきった様子に思わず声をかけてしまう。
彼女は俺に気がつくと顔を真っ赤にしてバスタオルを胸もとで抑え、すぐそばに置いてあったいつもの寝間着を拾った。
「もしやおぬし、我輩が帰るまでずっとその格好なのかえ? いつも慌てておったのは服を着ておったのか」
「ん〜……はい、そうです……」
彼女の隣に腰掛けて、至って平然な──むしろ恋人を健気に心配する優しい男のような顔を装って、ジッと見えそうで見えない彼女の身体を凝視する。彼女は寝間着を抱えたまま、ちらりとこちらに視線を寄越した。
「……肌弱いからかわかんないんだけど、今まで結構薄着……っていうか、服着て寝るのあんまり好きじゃなくて。むずむずするから脱いじゃうの、お風呂上がりも暑くて痒くなっちゃうから……ごめんなさい、こんなだらしないとこ見せないでおこうって思ってたのに」
申し訳なさそうにしゅんと肩をすぼめて、彼女は寝間着を広げた。着ようとするその手をやんわりと阻んで彼女と視線と合わせる。
「別にだらしなくとも構わん、ここはもうおぬしの家なんじゃから。我輩の前では取り繕ったりしないでおくれ。楽な格好で居れば良い」
「零……」
「風邪をひくかもしれぬので心配じゃが、まぁ今までそうしておったのなら大丈夫なのかのう」
「……零、勃ってる……なんかいいこと言ってるふうなのに……っ」
彼女は堪えきれないと言いたげに笑いながら俺の股間をチラ見する。俺は一度溜息をつき、彼女に向かって笑顔を浮かべて見せた。
「そりゃあもちろん、可愛い恋人の肌を見ていれば元気になっちゃうものじゃ。我輩も男なので」
「そっか、じゃあやっぱり着た方がいい?」
「いや、おぬしの好きなほうで良いぞい。着たところですぐ脱がせることになるからの」
「あははっ、酔ってる?」
酔っておらん、と言って、相変わらず可笑しそうにくすくす笑う彼女の頬に触れる。濡れた髪を耳にかけさせ、首筋を撫でて肩に手をやり、そっと唇を重ねた。
「酔っておらんから零ちゃんの零ちゃんも元気なんじゃよ。責任をもって面倒を見ておくれ」
「え〜、やだぁ」
「もちろんおぬしに拒否権はない」
「わっ」
にっこり笑って彼女の薄い肩を押し、そのままソファへ倒す。どうやら軽い冗談の一環だと思っていたらしい彼女は、今更頬を染めて俺を見つめた。
「え、マジのやつ……? ご飯先に食べようよ、お腹すいてるでしょ?」
「おぬしを喰うのが先じゃ、観念せい」
とうとう彼女の肌をかろうじて隠していたバスタオルを剥ぎ取り、ソファの下へ放り捨てて首筋へ噛みついた。目の前の据え膳に優しい紳士でいられるほど、俺は枯れていなかった。きっと彼女としては思いもよらぬことだったのだろうが。
別に浮気を疑っているわけではないが、こうも毎日だと流石に気になってしまう。ということで今日は帰る連絡をせずいきなりそうっと静かに帰宅することにした。鍵を回してそっとドアを開けて中に入る。ただいまは言わずに靴を脱いでリビングへ向かうと、そこには思いもよらぬ彼女の姿があった。
「……おぬし何て格好しとるんじゃ!」
「きゃあ!? わっ、えっいつのまに!?」
彼女はまだ少し濡れた髪のまま、下着だけ穿いて肩からバスタオルをかけ、ほぼ全裸みたいな格好でソファに寝そべっていた。そのリラックスしきった様子に思わず声をかけてしまう。
彼女は俺に気がつくと顔を真っ赤にしてバスタオルを胸もとで抑え、すぐそばに置いてあったいつもの寝間着を拾った。
「もしやおぬし、我輩が帰るまでずっとその格好なのかえ? いつも慌てておったのは服を着ておったのか」
「ん〜……はい、そうです……」
彼女の隣に腰掛けて、至って平然な──むしろ恋人を健気に心配する優しい男のような顔を装って、ジッと見えそうで見えない彼女の身体を凝視する。彼女は寝間着を抱えたまま、ちらりとこちらに視線を寄越した。
「……肌弱いからかわかんないんだけど、今まで結構薄着……っていうか、服着て寝るのあんまり好きじゃなくて。むずむずするから脱いじゃうの、お風呂上がりも暑くて痒くなっちゃうから……ごめんなさい、こんなだらしないとこ見せないでおこうって思ってたのに」
申し訳なさそうにしゅんと肩をすぼめて、彼女は寝間着を広げた。着ようとするその手をやんわりと阻んで彼女と視線と合わせる。
「別にだらしなくとも構わん、ここはもうおぬしの家なんじゃから。我輩の前では取り繕ったりしないでおくれ。楽な格好で居れば良い」
「零……」
「風邪をひくかもしれぬので心配じゃが、まぁ今までそうしておったのなら大丈夫なのかのう」
「……零、勃ってる……なんかいいこと言ってるふうなのに……っ」
彼女は堪えきれないと言いたげに笑いながら俺の股間をチラ見する。俺は一度溜息をつき、彼女に向かって笑顔を浮かべて見せた。
「そりゃあもちろん、可愛い恋人の肌を見ていれば元気になっちゃうものじゃ。我輩も男なので」
「そっか、じゃあやっぱり着た方がいい?」
「いや、おぬしの好きなほうで良いぞい。着たところですぐ脱がせることになるからの」
「あははっ、酔ってる?」
酔っておらん、と言って、相変わらず可笑しそうにくすくす笑う彼女の頬に触れる。濡れた髪を耳にかけさせ、首筋を撫でて肩に手をやり、そっと唇を重ねた。
「酔っておらんから零ちゃんの零ちゃんも元気なんじゃよ。責任をもって面倒を見ておくれ」
「え〜、やだぁ」
「もちろんおぬしに拒否権はない」
「わっ」
にっこり笑って彼女の薄い肩を押し、そのままソファへ倒す。どうやら軽い冗談の一環だと思っていたらしい彼女は、今更頬を染めて俺を見つめた。
「え、マジのやつ……? ご飯先に食べようよ、お腹すいてるでしょ?」
「おぬしを喰うのが先じゃ、観念せい」
とうとう彼女の肌をかろうじて隠していたバスタオルを剥ぎ取り、ソファの下へ放り捨てて首筋へ噛みついた。目の前の据え膳に優しい紳士でいられるほど、俺は枯れていなかった。きっと彼女としては思いもよらぬことだったのだろうが。