ぬいぐるみ
UNDEADのメンバーでツアーライブの打ち上げをした日の夜、驚かせてやろうと思い、俺は彼女の待つ家に音を立てずこっそり帰ってきた。そろりそろりと廊下を歩いていくと、リビングから彼女の話す声が聞こえてくる。通話でもしているのかと思い耳を澄ませ、ドアの隙間からこっそり中を覗き込んだ。
「零〜、可愛いねぇよしよし♡ でもひどいと思わない? こ〜んな遅くまで可愛い恋人を放置して、何時に帰ってくるのかも言ってくんないし、SNSにはメンバーとの楽しそうな写真上げてるし……何か言うこととかないわけ!?」
彼女はどうやらひとりで酒を煽っているらしく、ふわふわした調子でそんな愚痴をこぼしていた。さすがに寂しい思いをさせてしまったかと反省して部屋へ入っていこうとすると、思いもよらず自分の声が彼女のほうから聞こえた。
『うむ、可愛い可愛いなまえに寂しい思いをさせて、我輩とっても悪い子なのじゃ』
「……?」
自分の声が、紛れもなく彼女から聞こえたことにかなりの困惑と違和感をおぼえる。呆気に取られていると、彼女が机にもたれて大袈裟に泣き真似をした。
「わ〜んっもう私には零ぬいしかいないんだ! いいよ、声帯模写しちゃうから本体なんていなくてもいいもん! ね〜零ぬいちゃん……『うむ、おっきい我輩はいなくていいのじゃ』……」
どうやら彼女の手元には先日発売された俺をモデルにしたぬいぐるみがあるらしい。それにしても随分見事な声帯模写だ。が、大きい俺は要らないと言われるのには納得がいかない。ドアを開けて後ろから彼女に近づき、そっとぬいぐるみを取り上げる。
「なんじゃこいつは……我輩が本物の零ちゃんなんじゃけど?」
「……お、おかえり、え、いつから見てたの」
「可愛いねぇよしよし♡ のところからじゃ」
「最悪……」
彼女はただでさえアルコールで赤くなった顔をますます赤くして、溜息とともに机に突っ伏した。その頭をよしよしと撫でながら、彼女の隣へしゃがみこんで視線を合わせようとしてみる。
「声帯模写なんてどこの日々樹くんに習ったんじゃ」
「零のお友達の日々樹さんです……」
「まぁそれは面白いから構わんが、こんなぬいぐるみで代用などせんでおくれ」
「…………零ぬいは零の代用じゃないもん、零ぬいちゃんは零と違って傍にいてくれるもん」
わざと拗ねた子供のような声で、彼女は俺のほうを可愛らしく睨みつけた。そのやわいほっぺを指でつつきながらどこかふわふわした会話を続ける。
「そりゃお互いお仕事も付き合いもある、ずぅっと一緒にはおれん。しかしおぬしの恋人は我輩だけじゃろ」
「……そうだけど、全然、連絡もくれないから寂しかったの」
「それはすまんかった、おぬしに連絡すると寂しくなっちゃうので控えておったんじゃよ」
「…………」
彼女はやっと上半身を起こすと、無言で手を広げた。立ち上がって彼女にぎゅうっと力いっぱい抱き着く。彼女は満足したように俺を抱き返し、首もとに頭を擦り付けてくれた。
『愛しておるぞい』と自分の声で囁かれ、なんだか耳が変な感じになる。俺が少し身体を離して微妙な顔をすると、彼女はしたり顔で笑って俺にキスをしてくれたのだった。
「零〜、可愛いねぇよしよし♡ でもひどいと思わない? こ〜んな遅くまで可愛い恋人を放置して、何時に帰ってくるのかも言ってくんないし、SNSにはメンバーとの楽しそうな写真上げてるし……何か言うこととかないわけ!?」
彼女はどうやらひとりで酒を煽っているらしく、ふわふわした調子でそんな愚痴をこぼしていた。さすがに寂しい思いをさせてしまったかと反省して部屋へ入っていこうとすると、思いもよらず自分の声が彼女のほうから聞こえた。
『うむ、可愛い可愛いなまえに寂しい思いをさせて、我輩とっても悪い子なのじゃ』
「……?」
自分の声が、紛れもなく彼女から聞こえたことにかなりの困惑と違和感をおぼえる。呆気に取られていると、彼女が机にもたれて大袈裟に泣き真似をした。
「わ〜んっもう私には零ぬいしかいないんだ! いいよ、声帯模写しちゃうから本体なんていなくてもいいもん! ね〜零ぬいちゃん……『うむ、おっきい我輩はいなくていいのじゃ』……」
どうやら彼女の手元には先日発売された俺をモデルにしたぬいぐるみがあるらしい。それにしても随分見事な声帯模写だ。が、大きい俺は要らないと言われるのには納得がいかない。ドアを開けて後ろから彼女に近づき、そっとぬいぐるみを取り上げる。
「なんじゃこいつは……我輩が本物の零ちゃんなんじゃけど?」
「……お、おかえり、え、いつから見てたの」
「可愛いねぇよしよし♡ のところからじゃ」
「最悪……」
彼女はただでさえアルコールで赤くなった顔をますます赤くして、溜息とともに机に突っ伏した。その頭をよしよしと撫でながら、彼女の隣へしゃがみこんで視線を合わせようとしてみる。
「声帯模写なんてどこの日々樹くんに習ったんじゃ」
「零のお友達の日々樹さんです……」
「まぁそれは面白いから構わんが、こんなぬいぐるみで代用などせんでおくれ」
「…………零ぬいは零の代用じゃないもん、零ぬいちゃんは零と違って傍にいてくれるもん」
わざと拗ねた子供のような声で、彼女は俺のほうを可愛らしく睨みつけた。そのやわいほっぺを指でつつきながらどこかふわふわした会話を続ける。
「そりゃお互いお仕事も付き合いもある、ずぅっと一緒にはおれん。しかしおぬしの恋人は我輩だけじゃろ」
「……そうだけど、全然、連絡もくれないから寂しかったの」
「それはすまんかった、おぬしに連絡すると寂しくなっちゃうので控えておったんじゃよ」
「…………」
彼女はやっと上半身を起こすと、無言で手を広げた。立ち上がって彼女にぎゅうっと力いっぱい抱き着く。彼女は満足したように俺を抱き返し、首もとに頭を擦り付けてくれた。
『愛しておるぞい』と自分の声で囁かれ、なんだか耳が変な感じになる。俺が少し身体を離して微妙な顔をすると、彼女はしたり顔で笑って俺にキスをしてくれたのだった。