「言葉ってすごく不自由だ」

黙りこくって好き勝手作曲をしていた彼が、不意に遠くを見つめてそんなことを口にした。紙パックのジュースのストローを口から離し、一度唾を飲み込んでから言葉を返す。

「どうしてそう思うの?」
「だって、音楽ならそのまま頭から、心から色や形になるだろ。でも言葉は変えなくちゃいけないから……おれが言いたいことと、相手が聞いたことって、いつも違う」

若草色の瞳が、じっと窓の外を見る。言わんとすることはわかるような気がした。もっともそれすら、言葉で説明されているのだから、本当は彼の心など理解出来ていないのかもしれないけれど。

「言葉を選ぶときって、いつも自分の心に一番近いものを選ぶよね。その微妙なズレが、伝えてみると大きく歪んでしまうこともある。……でも、だから、レオ」

彼に近づき、白く柔らかな頬を手で挟む。そのまま顔を突き合わせて、こつんと額を合わせた。

「大事なことはこうやって、目を合わせて確かめながら言えばいいのよ。拙い言葉でもきっと伝わるわ」
「伝わるかなぁ」
「えぇ、きっと。言ってみて」
「……おれ、なまえのこと好きだよ」

眉をハの字にして、レオはこちらをおずおずを窺いみる。その様子があんまりいじらしくて、つい笑ってしまった。レオが何か言う前に、優しくキスで言葉を奪う。

「ふふ、私も好き」

すると、彼は目を輝かせて、幸せそうに笑って私を抱き寄せた。ふわりと彼の髪が私の頬を撫で、案外男らしい腕が強く私を抱き締める。

「わはは!ほんとだ、ちゃんと伝わった!」
「うん、伝わってるよ」

本当は言葉じゃなくても、音楽でも表情でも、なんだって貴方の発するものならきっと喜んで受け取ってみせたい。だからどうか、ずっとそばでたくさん心を表してね。