我慢出来るもん
彼女が帰ってきたのは物音で気付いていた。しかし疲れきっていたのもあり、ソファに横たわったまま眠ったふりをして黙っていた。
眠っているところにこっそりキスでもしてくれないかという期待もあった。彼女はリビングへやって来ると、俺がソファで手足を放り出し眠っているのを見つけてすぐに電気を消す。
そして何も言わず、音を立てないよう荷物を置いて溜め息をついた。持って帰ったらしいビニール袋から、何か聞きなれない音がする。お菓子を買って帰ってきたというわけではなさそうだ。
「ん……と、これ……とこれとこれか、……」
彼女は小声でそう呟き、プチプチと何かを取り出す。何かというか音を聞く限り錠剤らしい。それがあんまり多いように聞こえたので、こっそり薄目を開けて彼女のほうを見た。彼女はじゃらりとやけに多い錠剤を一気に口に含み、水をあおってごくりと飲み干す。驚いて起き上がり声をかけた。
「今の何」
「んっ!? ……っげほげほ、も、も〜びっくりさせないでよ……」
「なまえ。何の薬じゃと聞いておる、答えろ。というか吐け」
「えっちょっと待ってなんか勘違いしてない!? ステイステイ! ちゃんとお薬の説明あるから! 合法!」
彼女の手首を掴んで凄むと、彼女はびっくりしたように目を丸くさせ、なんだかちょっと笑いながら手もとの紙を俺に押し付けてきた。いまいち信用できないまま薬の説明に目を通す。
「……炎症を抑える薬? 痛み止めと抗生物質? あといつもの、持病の薬? ……それぞれ二錠ずつで八錠か。…………ふむ、それならよい。すまんかったのう、ちょっとびっくりしちゃったのじゃ」
「も〜勘弁してよ。薬めちゃくちゃ飲む人は八錠とかじゃないからね? もっとガリガリ飲んじゃうんだから。冤罪です!」
ぷんぷんと可愛らしく弁明する彼女をぎゅうっと抱きしめ、安心して胸を撫で下ろす。しかしふと気になって、顔を覗き込んだ。
「その、痛み止めやらはなんなのじゃ。どこが悪いんじゃ? 我輩なんにも聞いておらんのじゃけど?」
「あ〜……耳だよ、耳。なんか耳掃除しすぎちゃった? 奥までやらかしちゃった? みたいで、鼓膜のそばのとこ炎症起こしてるらしいんだよね」
「我輩なんにも聞いておらんのじゃけど?」
「二回も言わないでよ……別に言うほどのことでもないかなって」
「駄目じゃ。ちゃんと逐一報告せい。報告連絡相談じゃ! いやしかし耳というと……もしかしてしばらくいじっちゃいかんのかえ?」
そっと指先で彼女の耳に触れる。すると彼女はびくりと肩を揺らして顔を歪めた。どうやら穴のそばに触れるだけでも痛いらしい。
「うん、実は結構痛くて……だからしばらくえっちも我慢しようかなって」
「な、なぜじゃ」
「だって零、毎回耳めちゃくちゃいじってくるじゃん。ほんとに今は痛いからだめなの」
「むぅ…………零ちゃん我慢出来るもん……」
彼女の耳からすっと手を離し、その細い首すじに触れる。彼女はくすくす笑うと俺の手に自分の手を重ねた。
「私が触ってほしいって思っちゃうから。だめ」
「…………ぐぅの音も出ん。おぬしにおねだりされたら叶えちゃう自信があるのじゃ」
今にもついくせで彼女の耳を愛撫してしまいそうだ。なんとかこらえて彼女をじっと見つめると、彼女は甘やかに笑って俺の頭を撫でてくれた。
「すぐ治るから、良い子で待っててくれる?」
「うむ、良い子で待てたらご褒美をおくれ」
「はいはい、考えときます」
彼女は薬を引き出しに片付け、ちゅ、と俺の額にキスをして立ち上がった。そんないつも通りの愛らしい仕草だけでも、彼女が完治するまで待てるだろうか……と早くも不安になってしまうのだった。
眠っているところにこっそりキスでもしてくれないかという期待もあった。彼女はリビングへやって来ると、俺がソファで手足を放り出し眠っているのを見つけてすぐに電気を消す。
そして何も言わず、音を立てないよう荷物を置いて溜め息をついた。持って帰ったらしいビニール袋から、何か聞きなれない音がする。お菓子を買って帰ってきたというわけではなさそうだ。
「ん……と、これ……とこれとこれか、……」
彼女は小声でそう呟き、プチプチと何かを取り出す。何かというか音を聞く限り錠剤らしい。それがあんまり多いように聞こえたので、こっそり薄目を開けて彼女のほうを見た。彼女はじゃらりとやけに多い錠剤を一気に口に含み、水をあおってごくりと飲み干す。驚いて起き上がり声をかけた。
「今の何」
「んっ!? ……っげほげほ、も、も〜びっくりさせないでよ……」
「なまえ。何の薬じゃと聞いておる、答えろ。というか吐け」
「えっちょっと待ってなんか勘違いしてない!? ステイステイ! ちゃんとお薬の説明あるから! 合法!」
彼女の手首を掴んで凄むと、彼女はびっくりしたように目を丸くさせ、なんだかちょっと笑いながら手もとの紙を俺に押し付けてきた。いまいち信用できないまま薬の説明に目を通す。
「……炎症を抑える薬? 痛み止めと抗生物質? あといつもの、持病の薬? ……それぞれ二錠ずつで八錠か。…………ふむ、それならよい。すまんかったのう、ちょっとびっくりしちゃったのじゃ」
「も〜勘弁してよ。薬めちゃくちゃ飲む人は八錠とかじゃないからね? もっとガリガリ飲んじゃうんだから。冤罪です!」
ぷんぷんと可愛らしく弁明する彼女をぎゅうっと抱きしめ、安心して胸を撫で下ろす。しかしふと気になって、顔を覗き込んだ。
「その、痛み止めやらはなんなのじゃ。どこが悪いんじゃ? 我輩なんにも聞いておらんのじゃけど?」
「あ〜……耳だよ、耳。なんか耳掃除しすぎちゃった? 奥までやらかしちゃった? みたいで、鼓膜のそばのとこ炎症起こしてるらしいんだよね」
「我輩なんにも聞いておらんのじゃけど?」
「二回も言わないでよ……別に言うほどのことでもないかなって」
「駄目じゃ。ちゃんと逐一報告せい。報告連絡相談じゃ! いやしかし耳というと……もしかしてしばらくいじっちゃいかんのかえ?」
そっと指先で彼女の耳に触れる。すると彼女はびくりと肩を揺らして顔を歪めた。どうやら穴のそばに触れるだけでも痛いらしい。
「うん、実は結構痛くて……だからしばらくえっちも我慢しようかなって」
「な、なぜじゃ」
「だって零、毎回耳めちゃくちゃいじってくるじゃん。ほんとに今は痛いからだめなの」
「むぅ…………零ちゃん我慢出来るもん……」
彼女の耳からすっと手を離し、その細い首すじに触れる。彼女はくすくす笑うと俺の手に自分の手を重ねた。
「私が触ってほしいって思っちゃうから。だめ」
「…………ぐぅの音も出ん。おぬしにおねだりされたら叶えちゃう自信があるのじゃ」
今にもついくせで彼女の耳を愛撫してしまいそうだ。なんとかこらえて彼女をじっと見つめると、彼女は甘やかに笑って俺の頭を撫でてくれた。
「すぐ治るから、良い子で待っててくれる?」
「うむ、良い子で待てたらご褒美をおくれ」
「はいはい、考えときます」
彼女は薬を引き出しに片付け、ちゅ、と俺の額にキスをして立ち上がった。そんないつも通りの愛らしい仕草だけでも、彼女が完治するまで待てるだろうか……と早くも不安になってしまうのだった。