陳腐な言葉
「キスして」
玄関を開けるとそこには愛しの恋人がムスッとした表情のまま立っていて、第一声にそんなおねだりを口にした。両手を広げて俺をじっと見つめるので、戸惑いながらも腰に腕を回してキスをする。
「どうしたのじゃ、なまえ。今日は甘えんぼさんなのかえ?」
「違う、怒ってる」
「ほう、何をぷんぷんしとるんじゃ?」
「レシートポッケに入れっぱなし、靴下裏返したまま、畳んだ服をいつまでもクローゼットに入れない」
彼女は俺の胸板にぐいぐいと顔をうずめたまま、不満げに低い声でそう言った。それから控えめに俺の背中に腕をまわし、ぎゅっと縋るように抱きついてぽつりと呟く。
「……好きって全然言ってくれなくなった……」
「そっ……そんなことないじゃろ!」
「ある! あるもん、もうずっと言ってない!」
「えっちのときめちゃめちゃ言っておるじゃろ!?」
「そのときだけじゃん、ノーカンですそんなの!」
俺が驚いて身体を離し顔を覗き込むと、彼女は目に涙をためて、ぽこぽこと俺の胸もとを叩いた。死ぬほど言っているはず……と思って最近の自分を振り返ってみる。すると案外、思うばかりで口にしていないことに気がついた。
「んん……確かに言ってはおらんかったかのう……」
「もう飽きちゃった? 毎日一緒にいたら、飽きる?」
「そんなわけないじゃろ。大好きじゃよ、なまえ、日毎にもっともっと好きになるので困るくらいじゃ」
目もとを指の背で優しく拭って、唇を当てる。彼女は複雑そうな顔をすると勢いよく胸板に飛び込んできた。
「零の周り、綺麗な人もかっこいい人も、魅力的な人もたくさんいるから怖いの。いつか飽きられて捨てられちゃうのかなって思っちゃう」
「杞憂じゃな。とは言えそれは我輩とて同じことじゃよ。おぬしにいつか捨てられるのではと思うと怖い」
後頭部を撫でつけながら彼女の身体を抱き締め、軽く溜息をつく。彼女は俺に抱きついたまま黙りこくっていた。
「……じゃから、お互い不安にならぬよう、気持ちを素直に伝えるのも意識しておこう。おぬしからの大好きも聞きたいのう?」
「…………大好き!」
「よしよし良い子じゃ」
ひょいと彼女の体を抱き上げ、その目尻や鼻先、唇へ何度もキスをする。そうすると彼女のほうも嬉しそうにふにゃりと微笑んで、俺に自分からキスをしてくれたのだった。
玄関を開けるとそこには愛しの恋人がムスッとした表情のまま立っていて、第一声にそんなおねだりを口にした。両手を広げて俺をじっと見つめるので、戸惑いながらも腰に腕を回してキスをする。
「どうしたのじゃ、なまえ。今日は甘えんぼさんなのかえ?」
「違う、怒ってる」
「ほう、何をぷんぷんしとるんじゃ?」
「レシートポッケに入れっぱなし、靴下裏返したまま、畳んだ服をいつまでもクローゼットに入れない」
彼女は俺の胸板にぐいぐいと顔をうずめたまま、不満げに低い声でそう言った。それから控えめに俺の背中に腕をまわし、ぎゅっと縋るように抱きついてぽつりと呟く。
「……好きって全然言ってくれなくなった……」
「そっ……そんなことないじゃろ!」
「ある! あるもん、もうずっと言ってない!」
「えっちのときめちゃめちゃ言っておるじゃろ!?」
「そのときだけじゃん、ノーカンですそんなの!」
俺が驚いて身体を離し顔を覗き込むと、彼女は目に涙をためて、ぽこぽこと俺の胸もとを叩いた。死ぬほど言っているはず……と思って最近の自分を振り返ってみる。すると案外、思うばかりで口にしていないことに気がついた。
「んん……確かに言ってはおらんかったかのう……」
「もう飽きちゃった? 毎日一緒にいたら、飽きる?」
「そんなわけないじゃろ。大好きじゃよ、なまえ、日毎にもっともっと好きになるので困るくらいじゃ」
目もとを指の背で優しく拭って、唇を当てる。彼女は複雑そうな顔をすると勢いよく胸板に飛び込んできた。
「零の周り、綺麗な人もかっこいい人も、魅力的な人もたくさんいるから怖いの。いつか飽きられて捨てられちゃうのかなって思っちゃう」
「杞憂じゃな。とは言えそれは我輩とて同じことじゃよ。おぬしにいつか捨てられるのではと思うと怖い」
後頭部を撫でつけながら彼女の身体を抱き締め、軽く溜息をつく。彼女は俺に抱きついたまま黙りこくっていた。
「……じゃから、お互い不安にならぬよう、気持ちを素直に伝えるのも意識しておこう。おぬしからの大好きも聞きたいのう?」
「…………大好き!」
「よしよし良い子じゃ」
ひょいと彼女の体を抱き上げ、その目尻や鼻先、唇へ何度もキスをする。そうすると彼女のほうも嬉しそうにふにゃりと微笑んで、俺に自分からキスをしてくれたのだった。