導火線に火をつけて
たまたま、早く仕事が終わったあとに近所で花火大会をしておるというので、ユニットメンバーで足を運んでみた。人混みに揉まれながらも屋台を回り祭りを満喫していたのだが、流石に晃牙やアドニスくんのテンションにはついていけず、一旦休もうと人混みから外れたところへやって来た。
すると、ベンチに浴衣姿の女性がひとりぽつんと佇んでいるのを見つけた。遠目からはわからなかったが、それは密かに想いを寄せていた相手だった。
びっくりして思わず近くの木に隠れてしまう。そしてきょろきょろ辺りを見回し、どうやら少なくとも今はひとりらしいことを確かめ、深呼吸をしてカッコイイ顔を作ってから彼女に近づいた。
「これはこれは、偶然じゃのう。こんなところでそんなに可愛い格好のままひとりでいては危ないぞい」
彼女はびくりと肩を揺らし、顔を上げて俺を見る。その瞳は涙に濡れていて、俺は思わずびっくりしてしまった。
「……朔間さん。こんばんは」
「お、おおう……どうしたんじゃ。せっかくのお祭りじゃというのに……隣に座っても?」
「どうぞ」
恐る恐る、彼女の隣に腰を下ろす。彼女はすんと鼻をすすって、ちょっと誤魔化すように笑った。俯いた彼女の髪は綺麗に整えられていて、長い髪は可愛らしい簪で留められている。
「……友だちと、来てたんですけどね。偶然、好きな人に出会しちゃって……彼、彼女さんと来てたんです。腕組んで幸せそうに……それですぐお別れしたんですけど、やっぱり楽しめなくて。友だちに謝って先に抜けてきちゃった」
「……」
頼りなく震えた声は、かろうじて強がったまま笑いごととして事情を打ち明けてくれた。もちろん、彼女に想い人がいたという事実に関してはかなりショックだったが、目の前で悲しんでいる彼女を見ていると自分の心など些末なことのように感じた。
「本気で好きだったのになぁ。もしかしたら今日偶然会えるかもって思って、暑いのに浴衣なんか着て、髪の毛もセットして……あはは、今になってみると馬鹿みたいですよね」
「そんなことはない。……好きな人に良く見られたいとか、偶然でも会いたいとか、そういうことを考えるのは普通じゃろう」
「朔間さんでもそういうのわかるんですね」
「当たり前じゃ。それに何より……浴衣姿も髪型も、よく似合っておる。無駄でも滑稽でもない。可愛い」
照れくささは捨てて真剣にそう言うと、彼女はちょっと驚いたように目を丸くして俺を見た。そしてまだかすかに濡れた目を細め、嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふ、そんなに真剣に言わなくても。……でもありがとうございます、朔間さんにそう言ってもらえるなら頑張ってお洒落した甲斐があったかも」
「うむ。もういっそ、我輩のためにしたお洒落だと思っておくれ」
「そうしようかな」
「……我輩なら、おぬしを──」
と、彼女の頬に手を添えて瞳を覗き込んだそのとき、タイミング悪く大きな花火が打ち上がった。しかし彼女から目をそらさず、頬を両手で包み込み無理やり目を合わせた。
「我輩なら、こんなに健気で可愛い子をひとりで泣かせたりはせんのじゃけど」
「……さ、」
「……なぁんて。急に口説くと困らせちゃうかのう」
危うくそのまま唇を奪いそうになって、パッと手を離し距離を取った。彼女は俯きがちになって自分の両頬を両手で抑え、しかし露わになった耳は真っ赤なままで小さく声を震わせる。
「ドキドキするので困ります……。ほ、本気で好きだったんですよ、私……なのに朔間さんにドキドキしてたらなんか尻軽みたいじゃないですか」
「くく、それはおぬしがどうこうではなく、単にその男より我輩のほうが上、というだけかもしれんぞい? まぁ何はともあれ、せっかくの花火大会なのじゃ。嫌な思い出だけを持ち帰るよりはドキドキしちゃったほうが良いじゃろう? あわよくば今後とも我輩をしっかり意識しておくれ」
赤くなった耳のふちを指先でツウとなぞってみると、彼女はますます真っ赤になって少し後ずさった。
ドンドンと次から次へ打ち上がる綺麗な花火になど目もくれず、もはやお互いのことにしか意識は向いていなかった。
すると、ベンチに浴衣姿の女性がひとりぽつんと佇んでいるのを見つけた。遠目からはわからなかったが、それは密かに想いを寄せていた相手だった。
びっくりして思わず近くの木に隠れてしまう。そしてきょろきょろ辺りを見回し、どうやら少なくとも今はひとりらしいことを確かめ、深呼吸をしてカッコイイ顔を作ってから彼女に近づいた。
「これはこれは、偶然じゃのう。こんなところでそんなに可愛い格好のままひとりでいては危ないぞい」
彼女はびくりと肩を揺らし、顔を上げて俺を見る。その瞳は涙に濡れていて、俺は思わずびっくりしてしまった。
「……朔間さん。こんばんは」
「お、おおう……どうしたんじゃ。せっかくのお祭りじゃというのに……隣に座っても?」
「どうぞ」
恐る恐る、彼女の隣に腰を下ろす。彼女はすんと鼻をすすって、ちょっと誤魔化すように笑った。俯いた彼女の髪は綺麗に整えられていて、長い髪は可愛らしい簪で留められている。
「……友だちと、来てたんですけどね。偶然、好きな人に出会しちゃって……彼、彼女さんと来てたんです。腕組んで幸せそうに……それですぐお別れしたんですけど、やっぱり楽しめなくて。友だちに謝って先に抜けてきちゃった」
「……」
頼りなく震えた声は、かろうじて強がったまま笑いごととして事情を打ち明けてくれた。もちろん、彼女に想い人がいたという事実に関してはかなりショックだったが、目の前で悲しんでいる彼女を見ていると自分の心など些末なことのように感じた。
「本気で好きだったのになぁ。もしかしたら今日偶然会えるかもって思って、暑いのに浴衣なんか着て、髪の毛もセットして……あはは、今になってみると馬鹿みたいですよね」
「そんなことはない。……好きな人に良く見られたいとか、偶然でも会いたいとか、そういうことを考えるのは普通じゃろう」
「朔間さんでもそういうのわかるんですね」
「当たり前じゃ。それに何より……浴衣姿も髪型も、よく似合っておる。無駄でも滑稽でもない。可愛い」
照れくささは捨てて真剣にそう言うと、彼女はちょっと驚いたように目を丸くして俺を見た。そしてまだかすかに濡れた目を細め、嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふ、そんなに真剣に言わなくても。……でもありがとうございます、朔間さんにそう言ってもらえるなら頑張ってお洒落した甲斐があったかも」
「うむ。もういっそ、我輩のためにしたお洒落だと思っておくれ」
「そうしようかな」
「……我輩なら、おぬしを──」
と、彼女の頬に手を添えて瞳を覗き込んだそのとき、タイミング悪く大きな花火が打ち上がった。しかし彼女から目をそらさず、頬を両手で包み込み無理やり目を合わせた。
「我輩なら、こんなに健気で可愛い子をひとりで泣かせたりはせんのじゃけど」
「……さ、」
「……なぁんて。急に口説くと困らせちゃうかのう」
危うくそのまま唇を奪いそうになって、パッと手を離し距離を取った。彼女は俯きがちになって自分の両頬を両手で抑え、しかし露わになった耳は真っ赤なままで小さく声を震わせる。
「ドキドキするので困ります……。ほ、本気で好きだったんですよ、私……なのに朔間さんにドキドキしてたらなんか尻軽みたいじゃないですか」
「くく、それはおぬしがどうこうではなく、単にその男より我輩のほうが上、というだけかもしれんぞい? まぁ何はともあれ、せっかくの花火大会なのじゃ。嫌な思い出だけを持ち帰るよりはドキドキしちゃったほうが良いじゃろう? あわよくば今後とも我輩をしっかり意識しておくれ」
赤くなった耳のふちを指先でツウとなぞってみると、彼女はますます真っ赤になって少し後ずさった。
ドンドンと次から次へ打ち上がる綺麗な花火になど目もくれず、もはやお互いのことにしか意識は向いていなかった。