花火を持って、チャッカマンで火をつける。誰もいない深夜の河原で、私は恋人と子どもみたいに手持ち花火をしている。

私の持っていた花火に火がつくと、英智を手招きして彼の持っている花火の先を私の花火の先端に触れさせた。火がうつり、ふたりの花火に火が灯る。

綺麗な放物線を描いて暗闇を照らす光はオレンジ色や黄色やピンクなどさまざまな色で眩く燃え尽きていく。

 ちらちらと夜風に揺れるクリーム色の髪が、火花に照らされ光っている。彼の透明な海みたいな瞳が私を捉えて離さない。瞳はその唇より雄弁で、「楽しい!」と無邪気に伝えてくる。それが愛おしくて、私もつられて笑ってしまった。

「ねぇ見てて」

英智は弾むような声色でそう言って、くるくるの手もとの花火を回して見せる。光は円を描いて散らばり辺りを照らした。

「あはは、もうはしゃぎすぎ。危ないでしょ」

 まるで小鳥がさえずり合うような軽やかさで、私たちは花火に火をつけてはしゃぐ。手持ち花火はすぐに火を失い、その草臥れた死骸は水を張ったバケツの中で黙って私たちを見守っていた。

顔を上げても煙が立って夜空なんてちっとも見えない。光を直視しすぎたせいで目がくらんでいた。それでも楽しそうな英智の顔だけは鮮明に、私の脳に焼き付いた。

 ひと袋しか買わなかった花火は、はしゃいでいるとあっという間に無くなってしまった。いよいよ最後の線香花火だけが残されると、私たちは河原にしゃがみこみ、肩をぴったりくっつけて線香花火に火をつけた。

「……わぁ、小さな打ち上げ花火みたいだね。実際に見たのは初めてだよ」
「そうなの? まぁでも確かに、花火なんて大人になったらそうそうしないし……改めて見ると綺麗だね」
「これ、すぐ落ちてしまうと聞いたけど案外そうでも……あっ」

英智の持っていた線香花火の火薬が、振動でゆれてぽとりと落ちた。思わず肩を揺らした私の線香花火も後追いするように落ちてしまう。

 私たちはぽかんと間近で顔を合わせ、どちらからともなくくすくす笑いだした。

「英智、だめじゃん。揺らしたらすぐ落ちちゃうんだから」
「そうみたいだね。あともう少しあったよね? リベンジしたいな」

英智は腰を上げ、袋からまた二本、線香花火を持ってきた。また同じ体勢で、同じ距離で、お互いの花火に火をつける。ぱちぱち弾けながら、中央のまるはぷっくり膨れていく。私はふたつの線香花火がお互いに重なり合いながら弾けて消えかけていくのを、じっと見つめていた。

「……どれだけ大事にしてもすぐに落ちてしまうんだね」

 ふと、もの悲しげな声が私の鼓膜へ溶け込んだ。私は顔を上げて彼の横顔を見つめる。

「でも、こうして英智とふたりでじっとしてるの、私は好きだよ」

空気に酔って、私はそんなキザったらしいことを口にした。英智は私のほうを見ると柔らかく微笑んで、私の肩に手をやり、そのままくちびるを重ねてきた。

 線香花火はぴとりとくっついて、その振動でぽとりと地面に落ちる。暗闇のなか、彼の髪や眼差しだけがぼんやりと視界にゆらめく。その輪郭を確かめるように頬に手を当て、私の方からもキスを返した。

 そばを流れる川の水面には、朧げに満月がうつり込んでいる。流れていく川の先は遠く、その果ては見えそうにもない。