ひらひら、レースカーテンが揺れている。その向こうにはぼやけた太陽と、ベランダで洗濯物を干す彼女の姿があった。俺はリビングにぐったり寝そべって、彼女の後ろ姿を眺めている。

「ふん、ふふーん……♪」

陽気な鼻歌を歌いながら、彼女は踊るようにベランダを行き来する。太陽は眩しいが、こうして彼女の姿をじっと見つめている時間が俺は何より好きだった。

「零ちゃーん? 死んだ?」

 やがてベランダから戻って来た彼女は、窓とカーテンを閉めると俺に近づいてしゃがみこんだ。

「うむ、死んじゃったのでキスで生き返らせておくれ」

目を閉じてそんなふざけたことを言ってみると、彼女は子どもみたいにくすくす笑う。

「ばーか。えいっ」

ぷす、と頬を指でつつかれ、目を開けるとそのまま唇にキスを落とされた。抱き締めようとするとすぐに離れ、洗濯カゴを戻しに洗面所へ行ってしまった。

「ね〜、掃除機かけるからそろそろどいて〜」

 彼女は続けて掃除機を運んでくると、コンセントをさして俺に話しかけた。

「嫌じゃ! ちゅうしてくれぬと起きれん」
「はいはい」

もう一回キスをしてほしくて寝転がったままでいたのに、彼女は容赦なく掃除機の電源をつけて俺の体に当てた。大きな音を立てて吸引する掃除機の口が、ぐいぐいと俺のTシャツを吸い込もうとする。

「いたたたっ、零ちゃんはゴミじゃないぞい!?」
「ゴミじゃないならどいてくださーい」
「むぅ」

 最近、彼女の俺への扱いが心做しか雑になっているような気がする。でもそこにむしろ愛を感じてしまう。他愛ない家族のようなやり取りが、今は何より愛おしい。

「ね〜ニヤニヤしてないでどいてってば!」
「ちゅうしてくれんと退かぬもん」
「あとでしてあげる」
「嫌じゃ! いま!」

両手両足を広げて大の字で寝っ転がると、彼女は鬱陶しそうな表情をしてから掃除機の電源を切った。そして両手で俺の頬を挟み、そのままちゅっと唇を重ねる。最後に下唇をガリっと噛まれ、口を離された。

「はい、退いてください」
「はぁい」

 仕方なく、身体を起こし立ち上がる。すると彼女は俺を見上げて笑い、ぎゅうっと抱きついてきた。

「ちょっとだけ元気分けたげるね」
「……くく、ありがたいのう。今なら何でもできちゃいそうじゃ♪」
「そう? じゃ、これあげる」

俺がまんまと引っかかって口を滑らせると、彼女はすかさず俺に掃除機を渡してきた。受け取るとすぐに身体を離してキッチンのほうへ行ってしまう。

「ちゃんと端っこまでかけてね」
「……は〜い」

 彼女はキッチンから俺に笑いかけ、自分は洗いものを片付け始めた。俺は言われた通りリビングに掃除機をかけながら、たまにちらちら彼女の顔を見ては、陳腐な幸せを何度も大事に噛み締めるのだった。