「最近、随分ジュンと仲が良さそうですね」

他の人はみんな帰ってしまったオフィスで、突然、後ろから茨くんに抱きすくめられた。お腹のあたりに手を回され、不機嫌そうな声が耳にかかる。

「そ……そうかな」
「そうです」
「……やきもち?」
「……そうです」

思い上がるなとでも言われるかと思ったけど、茨くんは思いのほか素直に不貞腐れた声を出した。後ろから肩口に擦り寄られると、なんだか大きい子どもに甘えられているようだ。

「心配しなくても、茨くんが一番好きだよ」
「薄っぺらな言葉ですね」
「えぇ……じゃあ離して?」

茨くんは、やはり大人しく私の言うことを聞いてくれる。珍しいなぁと思いながら体を離して彼に向き合い、頬を両手で挟んで下向かせ、背伸びをして自分からキスをした。

「茨くんにしかしない」
「……生意気ですね」
「嬉しいくせに。明日オフでしょ?キスだけでいいの?」
「いいわけないでしょ」

彼は照れたような、不機嫌なようなちぐはぐな顔でキスをしてきた。唇が離れると、茨くんはもう一度、今度は正面から私を抱き締める。

「あんまり他の男と仲良くしないでください」
「ふふ、善処します」

茨くん以外と必要以上に仲良くなるつもりなんてさらさらないけれど、少し意地悪をしてそんな曖昧な返事をしてみた。

茨くんは予想通り苦虫を噛み潰したような顔をして、そのくせ、また私にやさしいキスをしてきた。

「……今日は甘えんぼだね。可愛い」
「へぇ、じゃあベッドでも甘やかしてくださいよ」
「ばか」

くすくす笑いながら、背伸びをして彼の首に抱き着く。さらさらの髪が頬にあたってくすぐったい。案外男らしい体格にときめきながら、彼の頬に擦り寄った。

「茨くんしか見てないよ」

いつも饒舌な茨くんは、何にも言わず、ただ私を抱き返した。器用なくせに不器用なひと、なんて益々愛おしくなったのは、彼の策略なのかしら。