執着して
「薫くん……」
街中で、ファンの女の子とお喋りしていると、聞きなれた声に名前を呼ばれた。振り向くと、最愛の恋人が突っ立っている。
浮気なんて誓ってしていない。けれどそう誤解されてもおかしくない状況だ。と言ってもファンの子に恋人がいることを悟られるのはまずい。最悪週刊誌なんかに情報を売られるし……と俺が何も言えずにいると、彼女は何も言わずに踵を返した。
「ごめん、そろそろ仕事行かなくちゃ。また俺に会いに来てね」
ファンの女の子をそう説得して、彼女の歩き去ったほうへ駆け出した。傷付けてしまったかもしれない。ただでさえアイドルなんて仕事で、彼女だけに愛を語るということが出来ていないのに。
走ると、案外すぐに彼女の後ろ姿を見つけた。彼女の細い肩を掴んで振り返らせると、彼女はケロッとした顔で俺を見た。
「あれ? どうしたの、薫くん」
「どうしたのって、だって……なまえちゃんのこと、傷つけちゃったかもって……」
俺が逆に驚いて言葉に詰まると、彼女は大袈裟に溜息をついてみせる。やっぱり怒ってるのかな、と彼女の怒りの言葉を待つけれど、投げかけられたのは案外冷めた声音だった。
「別に何とも思わないよ。薫くんは私のものじゃないし」
「え……俺はなまえちゃんのものじゃないの?」
「うん。だから、好きにしていいんだよ。付き合ってるのだって、ただ私が薫くんのこと好きだからってだけだし……薫くんのことは好きだけど、別に薫くんが他の子とセックスしようが何しようが、私が薫くんを好きなのは変わらないから」
「ちょっと待って」
……待って、ともう一度懇願して、彼女の肩を掴む。俺が他の子と何しても気にしないとか、付き合ってるのはなまえちゃんが一方的に俺のこと好きだからってだけとか、今更そんなふうに言われるなんて思っていなかった。
彼女にそんなふうに思わせているのが紛れもない俺自身だなんてわかっていた。けれど、それでも、胸を焦がすような苦しさが彼女に伝わっていないことが妙に腹立たしかった。
「……俺は嫌だよ。なまえちゃんが他の男と話してるのなんか見たくないし、ましてやセックスなんて許せない。……それくらいなまえちゃんが好きなんだよ、俺は」
吐き出すようにそう言うと、彼女は俺を見上げてぽかんとしたあと、みるみるうちに顔を真っ赤にした。その照れた顔を見て、少し安堵する。
「ごめんなさい、気づかなかった。……そう、なんだ。そっか、……ふふ、そっかぁ」
幸せそうに噛み締められると、こっちまで恥ずかしくなってくる。周りなんか気にせず彼女を抱き寄せると、彼女はそっと背中に手を回して抱き返してくれた。
「伝わってなかったなら、何回でも言ってあげる。だからちゃんと嫉妬して、俺のことなまえちゃんのものにしてよ」
「……うん」
わがままもやきもちも、ちゃんと言ってほしい。俺が彼女に思うのと同じように、俺に執着してほしい。傷つけたくはないけれど、でもやっぱりほんの少しくらい、俺を思って胸を痛めてほしいんだ。
「大好き、愛してるよ」
だからどうか、俺の言葉を受け取って。きみを傷つけるために吐く甘い言葉を。
街中で、ファンの女の子とお喋りしていると、聞きなれた声に名前を呼ばれた。振り向くと、最愛の恋人が突っ立っている。
浮気なんて誓ってしていない。けれどそう誤解されてもおかしくない状況だ。と言ってもファンの子に恋人がいることを悟られるのはまずい。最悪週刊誌なんかに情報を売られるし……と俺が何も言えずにいると、彼女は何も言わずに踵を返した。
「ごめん、そろそろ仕事行かなくちゃ。また俺に会いに来てね」
ファンの女の子をそう説得して、彼女の歩き去ったほうへ駆け出した。傷付けてしまったかもしれない。ただでさえアイドルなんて仕事で、彼女だけに愛を語るということが出来ていないのに。
走ると、案外すぐに彼女の後ろ姿を見つけた。彼女の細い肩を掴んで振り返らせると、彼女はケロッとした顔で俺を見た。
「あれ? どうしたの、薫くん」
「どうしたのって、だって……なまえちゃんのこと、傷つけちゃったかもって……」
俺が逆に驚いて言葉に詰まると、彼女は大袈裟に溜息をついてみせる。やっぱり怒ってるのかな、と彼女の怒りの言葉を待つけれど、投げかけられたのは案外冷めた声音だった。
「別に何とも思わないよ。薫くんは私のものじゃないし」
「え……俺はなまえちゃんのものじゃないの?」
「うん。だから、好きにしていいんだよ。付き合ってるのだって、ただ私が薫くんのこと好きだからってだけだし……薫くんのことは好きだけど、別に薫くんが他の子とセックスしようが何しようが、私が薫くんを好きなのは変わらないから」
「ちょっと待って」
……待って、ともう一度懇願して、彼女の肩を掴む。俺が他の子と何しても気にしないとか、付き合ってるのはなまえちゃんが一方的に俺のこと好きだからってだけとか、今更そんなふうに言われるなんて思っていなかった。
彼女にそんなふうに思わせているのが紛れもない俺自身だなんてわかっていた。けれど、それでも、胸を焦がすような苦しさが彼女に伝わっていないことが妙に腹立たしかった。
「……俺は嫌だよ。なまえちゃんが他の男と話してるのなんか見たくないし、ましてやセックスなんて許せない。……それくらいなまえちゃんが好きなんだよ、俺は」
吐き出すようにそう言うと、彼女は俺を見上げてぽかんとしたあと、みるみるうちに顔を真っ赤にした。その照れた顔を見て、少し安堵する。
「ごめんなさい、気づかなかった。……そう、なんだ。そっか、……ふふ、そっかぁ」
幸せそうに噛み締められると、こっちまで恥ずかしくなってくる。周りなんか気にせず彼女を抱き寄せると、彼女はそっと背中に手を回して抱き返してくれた。
「伝わってなかったなら、何回でも言ってあげる。だからちゃんと嫉妬して、俺のことなまえちゃんのものにしてよ」
「……うん」
わがままもやきもちも、ちゃんと言ってほしい。俺が彼女に思うのと同じように、俺に執着してほしい。傷つけたくはないけれど、でもやっぱりほんの少しくらい、俺を思って胸を痛めてほしいんだ。
「大好き、愛してるよ」
だからどうか、俺の言葉を受け取って。きみを傷つけるために吐く甘い言葉を。