*ファンタジー時空


「……夏目くん、あのひと…………」

きっかけは、彼女のそのひと言だった。彼女の視線の先には渉にいさん。今日も元気に魔法を披露しているらしい。

ボクが渉にいさんについて話すと、彼女は目を輝かせた。面白そうな人、なんて言って、まんまと彼女は恋に落ちたのだ。

彼女はボクの使い魔だ。少し手違いで悪魔である彼女を召喚してしまったのだけれど、人間たちの世界を知りたいと言う彼女と契約を交わし、使い魔として働いてもらうことになった。

好奇心旺盛な彼女が、渉にいさんを好きになるなんて簡単に予想出来たことだ。でも連れ歩いて、渉にいさんのことを教えてしまった。時間を戻す魔法や記憶を消す魔法があるならすぐにでも使いたい。

「ねぇ夏目くん、渉さんって本当に人間なの? とっても面白くて素敵な人だね」
「……そうだネ、ボクの自慢の師匠だヨ」

正直、契約を解消して好きにさせてやることも、少しは考えた。でも素直に手放すには、ボクは彼女を愛しすぎていた。

「なまえ」

ボクはこんなに、彼女にきらめくばかりの世界を見せてきたのに。彼女を愛して、彼女の愛するものを沢山与えてきたのに。……どうしてきみはボクを見てくれないの。

揺らぎは段々と心を蝕んで、愛は憎しみに変わった。こんなこといけないとわかってはいても、もう自分の歪んだ心を止めてやれなかった。

彼女の白い首に枷を嵌めて、可愛らしい羽根は引きちぎって、屋敷の中から出られないようにしてしまったのだ。

「……ご飯、また食べてないノ?」
「……」

衰弱した彼女が、涙の枯れた瞳でボクを見つめる。ごめんねなんて今更言えないけれど、でも。

「フフ、そうやってボクだけを見てるなまえが一番可愛イ」

歪んでいても、間違っていても、ボクは自分の選択について後悔なんてしていない。だって、こうしているのが一番の幸せだから。その可愛い瞳にボク以外がうつるなんて、耐えられないから。

……そんなふうになるくらいなら、きっと、死んでしまったほうがマシだから。