沈黙が流れる。なんとか怒りを彼に伝えようと試みたのだけれど、彼はただ無闇に謝るだけで、私がなぜ怒っているのかなんて理解していない。

「怒らせてしまってごめんなさい……」
「……なんで怒ってるかわかんないのに謝らないでよ。馬鹿にされてるみたいでムカつく」
「うぅ、ごめんなさい……」

イライラする。ああ、こんなふうにするつもりじゃなかったのに。ただ私、今日は仕事が早く終わるって言っていた彼と、久しぶりにゆっくりしたかっただけなのに。

連絡もなしに結局一晩帰ってこなくて、更に一日連絡はなく、翌日の晩──つまり今になって、彼が家にやって来たのだ。つい、連絡くらいよこせと怒ってしまって、今に至る。

「なまえちゃん、もう仲直りしませんか? ギュッてさせてください」

いけしゃあしゃあとそんな呑気なことを言われて、私はなんと言うべきだったのだろう。

でももう嫌味を言ったりしたくないのも、怒りたくないのも事実で、私は黙りこくってしまった。

彼は何も言わず、沈黙する私を抱きしめる。ふわふわの髪が頬やうなじを優しくくすぐる。落ち着く香りが私を包むとどうしようも安心するのに、心の奥にはまだわだかまりがある。

彼は世界一やさしい私の恋人。皆を幸せにする魔法使い。でも寂しいのは、彼の人間らしい欲も情も、私に向けてくれないことだ。

私はこんなにも貴方に掻き乱されてしまうのに、貴方はいつも平然と微笑んで受け容れるだけ。まるでお人形でひとり遊びをしているみたい。

「……つむぎくん、私、寂しいよ」

彼の広い背中に手を回して、絞り出すようにそう縋り付く。彼は私を抱き締めたまま、よしよしと私の頭を撫でた。あたたかいのは体だけ。

「大丈夫ですよ、俺が傍にいますから」

ちがう。貴方の心が私と重なったことなんて、一度だってない。それがかえって惨めだった。体はこんなに近くにあっても、心はそうでないことが、私には何より寂しいのだ。

「つむぎくんのばか……」

それでも貴方が、殺してしまいたいほど好きだから、寂しいのもつらいのも飲み込んで傍にいる。いつか貴方の心が見つかる日を馬鹿みたいに期待して、また同じことを何度だって繰り返すのだ。



***
リクエストありがとうございました´`*