ESの空中庭園で、昼下がり、ベンチに佇むこはくくんを見つけた。珍しいなと思い声をかけに行ったところ、どうやらこれもまた珍しく、眠ってしまってるらしいかった。

 起こさないよう静かに、彼の隣に腰を下ろす。春先はまだ風が肌寒い。身体を冷やしてはいけないとブレザーをかけてやると、こはくくんは微かに唸り声をあげた。

「……んん、なんやの、起きとるよ……」

寝言だろうか。黙って見守っていると、彼はまた規則正しい寝息を立て始めた。ホッと胸を撫で下ろし、そのまま彼の寝顔を見つめる。

 人様の寝顔をまじまじと見るなんて失礼だとは思うけれど、彼があんまり綺麗で、目が離せなくなってしまったのだ。

 意思の強そうな細い眉は、普段よりやや脱力して下がっている。伏せられた長い睫毛は形も綺麗で、ふちどられた瞳を見たくなってしまう。さくら色の柔らかな髪が、春風に吹かれるたび彼の柔らかそうな頬を撫でている。

 「ん……なあ、見すぎとちゃう?」
「わっ、起きてたの?」

長い睫毛が気だるげに上げられると、桃色の瞳がぼんやり私をうつした。彼はまだ夢見心地のまま、いつもより間延びした声音を出す。

「起きたっちいうより、起こされたんや……ふぁあ、わしに何か用か?」
「ううん。ただ、こはくくんが綺麗だから見蕩れてたの。ごめんね」

素直に謝ると、彼は不思議そうに首を傾げた。さら、と髪が揺れる。

「それは褒めとるんか? ……綺麗っちいうんは、なまえはんみたいなひとに言うんとちがうの?」

こはくくんは、そう言って私に上着を返す。笑った顔はまるで花が咲いたみたいに綺麗で、可憐で、どこか儚げだった。

「ううん、こはくくんが一番、綺麗だよ」
「……そうなん? まあ、なまえはんがそう言うんやったらそうなんかもしれんな」

目が離せなくなるほど、彼の静かな寝顔は綺麗だ。でも穏やかな寝顔よりも、幸せそうな微笑みのほうがずっと、どんな麗らかな春よりも綺麗に思えた。