町外れに、ぽつんと小さな教会がある。その日ぼくは仕事が終わったあとふらふら散歩をしていたのだけれど、突然雨に降られ、雨宿りをするためこの教会に駆け込んだのだ。

 重い扉を開けて中へ入ると、イエス像の前で膝をついていた少女がぼくを振り返る。

「……天使さま?」

つい、そんな間抜けな言葉を零してしまった。彼女には羽根も輪っかもないのに、こちらを見つめる柔らかな眼差しが、おおよそ人間のものとは思えなかったのだ。

 「わ、大変。何か拭くものを……」
「あ……ありがとう……」

彼女は傍に置いていた鞄からハンカチを取り出し、ぼくに近づく。髪や頬をハンカチで拭いてもらう間、血の通った白い頬を見つめていた。

 その真っ直ぐな穢れのない瞳は、まるで天使のように清らかで恐ろしいほどだ。なのに、その首筋には脈が通っているし、小さな唇からは静かに呼吸が漏れている。

「きみ、ここの人?」
「え? ……ううん、お祈りをしにきただけですよ」

そっか、と返事をすると、彼女はぼくから手を離す。吸い込まれそうなほど綺麗な瞳が、ぼくを捕らえた。

 「貴方も、お祈りしますか? 雨がやみますようにって」
「ぼく、神さまなんて信じてないからお祈りはしないね! あ、こんなこと言う人はここに居ちゃダメなのかね?」
「うふふ、大丈夫ですよ」

彼女の微笑に、心臓が一瞬だけ早くなる。つい、無意識に彼女の頬に手を伸ばした。自分の手が冷えていたのか、触れた頬は思っていたより熱い。

「でも……、きみが天使だって言われたら、信じちゃうかもね」

彼女は怯えることなく、ただ不思議そうにぼくを見つめている。距離を詰めて、彼女に拒まれるより先にその唇を奪った。ピシャ、と外で雷の落ちる音がする。

「雨がやんだら、きみをここから連れ出してもいい? きみのこと、もっと教えてほしいね」
「……ふふ、変なひと。いいですよ」

清純な天使さまはそうやって無防備に微笑む。外ではまだ雨が屋根を打ち付けていた。

 神さま、ごめんなさい。あなたの天使さま、気に入っちゃったからもらいます。……なんて心の中で申し訳程度の懺悔をして、教会の真ん中にあるイエス像をちらりと見、にやりと笑みを浮かべた。