「あ、」

前方に見知った背中を見つけて、つい、声を漏らした。小さな背中がふらふらと頼りなく廊下を歩いていたものだから、心配になってつい、声をかけてしまった。

「こんにちは。なんだかふらふらだけど、大丈夫なのォ?」

彼女はびくりと身体を揺らして、こちらを振り返る。思ったより疲れたような顔色をしているのに、彼女は俺を見て無理に笑って見せた。

「こんにちは、藍良くん。大丈夫だよ、ちょっと貧血なだけ……」
「ええっ、貧血? 無理しちゃダメだよォ、ええと、何か急ぎの仕事でもあるの?」

俺がわたわたと慌てると、彼女はくすりと微笑み首を横に振った。

「ううん、もう帰るところ。私は大丈夫だから……」
「……でも、」

と、そこまで言いかけて口を噤んだ。

 俺がヒロくんみたいに力持ちだったら、彼女をおぶってどこかまで運んであげられたかもしれない。タッツン先輩やマヨさんなら、もっと気の利いたことをしてあげられるのかもしれない。

 でも、俺は彼女に何にもしてあげられない。何も出来ないどころか、無理に笑顔を繕わせてしまっているのだ。そう思うと、どうしようもなく自分が不甲斐なくて、申し訳なくなってしまった。

「藍良くん」

彼女の冷たい手が、俺の頭を撫でる。

「……ESのエントランスまで、一緒に来てもらってもいい? 歩くの、ちょっとつらいから」
「う、うんっ! もちろんだよ、一緒に行くだけでいいの?」
「うん。藍良くんがいてくれるだけで、安心するから」

ああ、と、ひとりで肩を落とす。心配して勝手に落ち込んだ俺を見て、彼女はきっと気を遣ってくれたんだ。ただでさえ体がつらいのに、俺がいるだけでいいなんて言って。

「……俺、もっと頼れる人になるからねェ」
「ふふ、今で十分だよ」

彼女の優しい手を温められるように。彼女の隣を堂々と歩けるように。精一杯努力しよう、今はまだちっとも足りないけれど。