※やさしいへびさん(七種茨)の後日談です。





 鈍い頭痛を感じながら目を覚ますと、目の前には見慣れたひとの見慣れない表情があった。思わず叫びそうになって、すぐに息を呑み込む。

 至近距離でぐっすり眠っている茨くんの寝顔を見つめ、何故同じベッドで眠っているのかと、昨晩の記憶を掘り起こそうとした。が、何も思い出せない。

 「おはようございます」
「うわっ、……お、おはよ〜、茨くん……」

突然声をかけられて、思わず身体を硬直させる。茨くんは私をジッと見つめて、にやりとまさにヘビのように笑った。

「で、どうします?」
「……どう、って? 起きるかどうかってこと?」

私が誤魔化すように笑うと、茨くんはあからさまに呆れたような顔をする。昨日、何か言っていただろうか。

 茨くんは私の頬にかかる髪をどけて、そのまま頭を撫でてくる。その手つきが彼らしくなくやさしくて、つい怯んでしまった。

「貴女、昨晩のこと覚えてないんですね」
「うん……ごめんね。私、何か言ってた?」
「いーえ、何も?」

拗ねるような、嫌味っぽい声音で茨くんがそうとぼける。これは何かあったんだろうなあ、と他人事のように思いながら、大人しく彼に撫でられていた。

 すると、不意に彼が手を止める。一瞬、ほんの一瞬だけ、唇に柔らかい感触が当てられた。

「……え、」
「なかったことにしてあげますよ、ちゃんと」

 そう言って、茨くんはベッドから出て行ってしまった。昨晩の私が何をして何を言ったかなんて、とても思い出せない。けれど、なかったことにすると言った彼がなんだか寂しそうな顔をしていたから、私はほとんど何も考えずベッドを飛び出したのだ。

 「茨くん」

服の裾を掴むと、彼は振り払うこともせず私を振り返る。振り払えるくせに、無視できるくせに、彼はそうしない。

「……もう一回キスしたら、思い出すかも」
「はあ?」

私の馬鹿な言い分に、彼は包み隠さず呆れた声を出す。でも、眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔で私を暫し見つめたあと、観念したように長く息を吐き出した。観念したというより、心底馬鹿にされているような気もする。

「貴女、俺が思ってるより数百倍馬鹿なんですね」
「そんなに賢いと思ってたの? 意外」
「……うるせぇ」

ベッドに押し戻され、そのまま唇を奪われる。どちらからともなく熱い舌を絡めた。彼は一度唇を離すと、楽しげに唇の端を吊り上げる。

「思い出すまでやめませんからね」

 ……昨晩の私はいったい何を口走ったのだろう。もう今となっては、なんだって構わないのだけれど。




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