「……ごめんなさい、わたし、馬鹿だから」

それが彼女の口癖だった。何かあればすぐに自分の過失を探して、怒られればそれが理不尽でも謝って、いつもいつも自分を悪者にしようとする。

ぼくはそれが気に食わなかった。というより、彼女をそうしてしまった環境に心底吐き気がした。

というのも、彼女は落ち目の財閥の次女で、長女を引き立たせるため何かと出来損ないのレッテルを貼られてきたのだ。何も出来ない妹、それに比べて優秀な姉、というふうに。

でもぼくは、初めて社交パーティで彼女に出会った時からずっと、彼女のことが好きだったのだ。

緋色のドレスを身にまとって、壁際で大人しく佇んでいる。長いまつ毛に縁取られた瞳はどこか哀愁を帯びていて、まるで現世の穢れを憂う女神さまみたいだ、なんて思った。

彼女は、思っていたより随分簡単に手に入った。元々自分に自信などない子だったし、家の人も出来損ないが巴家とのパイプになるなら万々歳だなんてほざいていたから。

でも付き合うようになって、どうしても彼女の口癖が気になったのだ。

「ねえ、きみはぼくのこと、どう思ってるの?」

家のソファで隣に彼女を座らせて、静かにそう訊ねた。彼女はきょとんとしたまま、少し嬉しそうに微笑んで答える。

「太陽みたいなひと。……賢くて、優しくて、そばにいると安心します」
「ふふ、当然だよね。あのね、ぼくはきみが思うとおりとっても凄い人間なの。異論はないよね?」

こく、と彼女が頷く。その白い頬に手を添えて、ジッと綺麗な瞳を見つめた。

「そんなぼくが、馬鹿な人間と付き合うと思う? ううん、言い方を変えるね。それだけ凄いぼくが、わざわざ家のひとにまで口利きして、外堀を埋めて、確実にきみを手に入れたんだね。なのにそのきみが魅力的じゃないなんてこと、本当にあると思うの?」

ぼくがそう彼女に問いかけると、彼女は少し不安そうな目をする。睫毛を伏せて、小さく唇を開いた。

「……日和さんは優しいから、馬鹿なわたしでも掬ってくれるんでしょう?」
「もう。……きみのそういうところは馬鹿だと思うね。でもね、なまえちゃん。ぼくはきみのことがとっても大好きなの。きみの価値なんて、それ以外に必要かね? ぼくに愛されるってことがどれだけのことか、わかってる?」

親指で彼女の柔らかな唇をなぞる。彼女はやはり不安そうな目でこちらを見た。

「きみはぼくのものだね。だからたとえきみであろうと、ぼくのものを馬鹿にするのは許さないね」
「……うん、ありがとう……」
「ふふ、どういたしまして」

やっと笑ってくれた彼女に、優しく触れるだけのキスをする。よしよしと頭を撫でると、彼女はくすぐったそうに笑った。

「愛してるよ。ちゃんと、愛されてるって自覚してね」
「うん……わたしも、愛してます」
「そんなの当たり前だね!」

にっこり笑って、彼女をそのままソファに押し倒す。きみがぼくに愛されてるってしっかりわかるまで、ぼくは毎日毎分毎秒、きみに愛を伝えてあげるからね。