「んん……ぅう……」

隣で眠っているはずの彼女が、さっきからもぞもぞしている。何度も寝返りをうつものだから、つい気になって彼女のほうを見た。

「……眠れないの?」
「わっ、びっくりした……うう、ごめんなさい。私、何かを抱っこしてないと眠れないみたいで……腕がもぞもぞしちゃうんです……」

そうすると、普段はお人形さんでも抱えて眠っているのだろうか。想像するとなんだか可愛らしい。くすくす笑って彼女を引き寄せ、腕の中に閉じ込める。

「じゃあ特別に、ぼくのこと抱いてていいね」
「うわっいい匂いする……」
「お風呂は一緒に入ったんだから、同じ匂いだよね?」
「あれ? 確かに……でもやさしくて、いい匂いです」

彼女は恐る恐る、ぼくの背中に腕を回す。ぎゅうっと身を寄せ合うと、彼女の早い鼓動が伝わってきた。

「……すっごくドキドキしてるね?」

彼女の頭を撫でてやると、彼女はぼくの胸に頭をつけて小さく言い訳をする。

「だって、緊張しちゃうから……」
「うーん、眠るためにハグしてるのに逆効果だね。……もういっそ、寝ないでいる?」

彼女の顔を上げさせて、優しく目もとを撫でる。彼女は一瞬ぼうっとしたあと、すぐに真っ赤になって固まってしまった。

「あはは、冗談だね! 明日はふたりでデートだから、ちゃんと寝なくちゃね。ほら、目を瞑ってね……」

彼女の目を閉じさせ、そのままそっと触れるだけのキスをする。小さな体を抱き締め、ぽんぽんと背を撫でながら鼻歌を歌う。

そうすると、とくん、とくん、と心臓の音が静まって、とうとう穏やかな寝息までもが聞こえるようになった。

「……おやすみ、なまえちゃん」

あたたかい温度を全身に感じながら、そっと目を閉じる。このままきみの夢が見られたらいいな。そうしたらぼくは、寝ても覚めてもきみと一緒にいられる。だからきみも、ぼくの夢を見てね。きっとそれ以上幸福なことなんかないんだから。