「日和さん、おかえりなさい!」

ESビルから実家へ帰ると、なまえは綺麗な翠色のパーティードレスを着て、ぼくを出迎えてくれた。

「ただいま。きみも来てたんだね」
「うん、招待していただいたの。私、久しぶりに日和さんに会えるのが嬉しくて、それに日和さんのお誕生日だから、何を用意しようかって……」

 ぼくの誕生日にかこつけて、実家は色んな財閥の人を招待してパーティーを開いている。ここにいる人は皆、ぼくを祝いに来たというよりは、巴家に媚びを売りにきたというわけだ。

 そんな中、目の前の彼女だけはきらきら目を輝かせて、心底嬉しそうににこにこ笑っている。

「うんうん、それで、何を用意してくれたの?」
「ふふ、えっとね……はい!」

彼女はぼくに、小さな箱を突き出した。アクセサリーかな、なんとなく箱の大きさ的に指輪みたいだ。なんて思いながら中を覗くと、中にはきらりと光るピアスが入っていた。

「そんなに、高価なものじゃないけれど……その、石を選んで、作ってみたの」
「えっ、きみがつくったの?」
「うん! 既製品より良いかなって……その、ペリドットって宝石なの。色が日和さんみたいで素敵だと思って。それに、石言葉がね、安心とか幸福らしいの。だから日和さんが幸せになれますようにっておまじないなの」

 楽しそうに説明をしてから、彼女は少し不安そうにぼくを見上げる。ぼくがあっけに取られて黙り込んでしまったから、喜んでいないと思わせてしまったらしい。

「……ごめんなさい、手作りなんて失礼だったかも……」
「ちょ、っと待って! ……ごめんね、あんまりびっくりしちゃってつい、ボーッとしちゃったね。すっごく嬉しいよ。ありがとう、大事にするね」

 よしよしと彼女の頭を撫でると、彼女は安心したように肩を撫で下ろした。いつもお人形さんみたいに周りの人に流されるがままの彼女が、まさかぼくのために自分で色々考えてプレゼントを用意してくれるとは思わなかった。

「……ねえ、今日……パーティーが終わったあと、ぼくの部屋に来てくれる?」
「うん、大丈夫だけど……何かあるの?」

夜に部屋に来てねという意味は、残念ながら伝わらないみたい。けれど別に構わない。

「ううん、ただ、二人っきりでお祝いしたいだけだね! ぼくは明日からまた寮に戻るから、今夜だけでも昔の頃みたいに二人で眠りたいと思ってね」
「……私も、日和さんと昔みたいにしたいなぁ。じゃあ、終わったらお部屋に行くね」

 彼女はそう言って、ぼくから離れてしまった。ぼくに話しかけようとしていた人がいたのを察したのだろう。
 その後は何人かの人に適当な祝いの言葉をかけられ、社交辞令的な会話を何度も重ねた。



 そうして夜が更けて、パーティーもお開きになるとまっすぐ自分の部屋に戻った。幼い頃から、何かにつけてこんなパーティーがある。きっとこれからも同じように毎年毎年、ぼくのためじゃないぼくの誕生日パーティーが行なわれるのだろう。

 「……日和さん、」

コンコン、とドアを叩く音がする。ああでもこの子は、この子だけは。

「どうぞ、入っていいよ」
「お邪魔します……」

 おいで、と言う代わりに自分の座るベッドのうえを叩くと、彼女はちょこちょことやって来て、ぼくの隣に腰掛けた。少し気恥しいのか、にこにこと笑っている。

「ぼく、もう19になっちゃったね」
「来年には成人だね。ふふ、私も早く大人になりたい」

彼女の横髪を耳にかけて、その無垢な瞳をじっと見つめる。彼女がくれた宝石みたいに、透き通って綺麗な瞳だ。何も知らない、幼いままのきれいな女の子。

「大人になんか、ならないでほしいね」
「……どうして?」
「だってきみが大人になっちゃったら、ただ寄り添って眠るだけができなくなっちゃうね。そうでなくても、ぼくはきみがいつかさっきの大人たちみたいに汚くなっちゃうのなんて、見たくないね」

彼女の、綺麗に結えられた髪を解く。ベッドに細い身体を押し倒すと、彼女は少し寂しそうな顔をした。柔らかな手が僕の頬に触れる。

「……愛してるよ、せめて来年も再来年も、そばにいてね」

額にくちびるを当てて、ふわふわの髪を撫でる。彼女は少しだけ微笑んで、こくりと頷いてくれた。

 無垢な宝石はきらきら光りながらぼくを受け入れてくれる。ぼくが時間とともに擦り切れて薄汚れてしまったとしても、どうかきみだけは綺麗なままでいてね。