夢の中の私
「最近、おかしな夢を見るの」
彼女はそう言って、紅いくちびるから溜め息を零す。部室のソファに座った彼女の仕草をじっと観察しながら、話の続きを促した。
「ほう。どんな夢です?」
「あなたに、殺される夢」
部室に似合わず豪華なソファのうえで、彼女は宝石のような瞳を私に向ける。細くしなやかな白い脚がソファのうえに上げられると、少し短めのスカートがずれた。ごくりと生唾を飲み込み、彼女の瞳を覗き込む。
「私が怖いのですか?」
「いいえ、ちっとも」
「ふむ。…………では、私に殺されたいのですか?」
私がソファの背もたれに手をついて彼女に詰め寄ると、彼女は視線をそらし、そのくちびるに指先で触れた。考え込むような素振りがやけに色っぽくて、目を離せなくなる。
やがて、彼女はくちびるに触れていた指先を私へ伸ばし、そっと頬に触れてきた。少し冷たい指先が、ひたりと私の温度を奪う。
「うん、そうかも。私、渉に殺されてみたいんだと思う」
指先は、頬から私の首筋を伝い、私の手に触れた。片手を絡め取られ、彼女の細い喉に導かれる。そのまま喉に手を回せば、手のひらに、どくん、どくんと彼女の脈が伝わってきた。
ぞくり、と、恐怖とは全く違うどす黒い何かが背筋を這い上がってくる。力を込めればこのまま折れてしまいそうな、華奢な花のような細く白い喉。目の前の彼女の生を、今は私が独占しているのだ。
……そう思うと、背徳感とも優越感とも言い表せない感情が腹の奥を渦巻いた。
「……殺してもいいよ」
甘い囁きが、悪魔のように私の鼓膜を揺らす。どく、どく、と自分の鼓動が速くなる。一瞬、手に力を込めそうになって、すぐに手を離した。
「ふふ、おかしい」
くすくす笑って、彼女は口もとを指先で隠す。きっと、私はどれほど彼女を殺してしまいたいという衝動に駆られようと、彼女を殺せないのだろう。そして彼女もそれを充分知っているのだ。
「……夢の私が心底羨ましいです」
「そうだね。私も、夢の中では幸福なの」
はあ、と溜め息をついて、愉しげに微笑んでいる彼女にもう一度近付く。彼女は私の三つ編みに触れて、そっと顔を上向けた。その意地の悪いくちびるにキスをすれば、彼女は幸せそうに笑う。
「ふふ。でも、今もとっても幸せ」
「殺せないかわり、いくらでもこうして幸せにします」
「それは嬉しいな、眠りたくないくらい幸せかも」
「なら私の次のセリフは、寝かせませんよ、ですかね」
彼女をソファに押し倒し、柔らかな頬にかかる髪を優しく横へ流す。ほんのり赤みを帯びた顔が、やはり心底幸福そうに笑うから、ついつられて微笑んでしまう。
「まだお昼だけどね?」
「そんなのは些細なことです。夢よりも甘美な現実に溺れようではありませんか!」
そう言って彼女にキスをしようとしたところで、部室のドアが開けられた。そちらに視線をやると、げんなりした顔の友也くんと北斗くんが立っている。
「おや! もう目を覚ます時間のようですね、残念です」
「じゃあ、続きはまた夢でね」
彼女はそう笑って身体を起こす。ああ本当に、本当に、貴女の夢の中の私が心底憎らしい。
彼女はそう言って、紅いくちびるから溜め息を零す。部室のソファに座った彼女の仕草をじっと観察しながら、話の続きを促した。
「ほう。どんな夢です?」
「あなたに、殺される夢」
部室に似合わず豪華なソファのうえで、彼女は宝石のような瞳を私に向ける。細くしなやかな白い脚がソファのうえに上げられると、少し短めのスカートがずれた。ごくりと生唾を飲み込み、彼女の瞳を覗き込む。
「私が怖いのですか?」
「いいえ、ちっとも」
「ふむ。…………では、私に殺されたいのですか?」
私がソファの背もたれに手をついて彼女に詰め寄ると、彼女は視線をそらし、そのくちびるに指先で触れた。考え込むような素振りがやけに色っぽくて、目を離せなくなる。
やがて、彼女はくちびるに触れていた指先を私へ伸ばし、そっと頬に触れてきた。少し冷たい指先が、ひたりと私の温度を奪う。
「うん、そうかも。私、渉に殺されてみたいんだと思う」
指先は、頬から私の首筋を伝い、私の手に触れた。片手を絡め取られ、彼女の細い喉に導かれる。そのまま喉に手を回せば、手のひらに、どくん、どくんと彼女の脈が伝わってきた。
ぞくり、と、恐怖とは全く違うどす黒い何かが背筋を這い上がってくる。力を込めればこのまま折れてしまいそうな、華奢な花のような細く白い喉。目の前の彼女の生を、今は私が独占しているのだ。
……そう思うと、背徳感とも優越感とも言い表せない感情が腹の奥を渦巻いた。
「……殺してもいいよ」
甘い囁きが、悪魔のように私の鼓膜を揺らす。どく、どく、と自分の鼓動が速くなる。一瞬、手に力を込めそうになって、すぐに手を離した。
「ふふ、おかしい」
くすくす笑って、彼女は口もとを指先で隠す。きっと、私はどれほど彼女を殺してしまいたいという衝動に駆られようと、彼女を殺せないのだろう。そして彼女もそれを充分知っているのだ。
「……夢の私が心底羨ましいです」
「そうだね。私も、夢の中では幸福なの」
はあ、と溜め息をついて、愉しげに微笑んでいる彼女にもう一度近付く。彼女は私の三つ編みに触れて、そっと顔を上向けた。その意地の悪いくちびるにキスをすれば、彼女は幸せそうに笑う。
「ふふ。でも、今もとっても幸せ」
「殺せないかわり、いくらでもこうして幸せにします」
「それは嬉しいな、眠りたくないくらい幸せかも」
「なら私の次のセリフは、寝かせませんよ、ですかね」
彼女をソファに押し倒し、柔らかな頬にかかる髪を優しく横へ流す。ほんのり赤みを帯びた顔が、やはり心底幸福そうに笑うから、ついつられて微笑んでしまう。
「まだお昼だけどね?」
「そんなのは些細なことです。夢よりも甘美な現実に溺れようではありませんか!」
そう言って彼女にキスをしようとしたところで、部室のドアが開けられた。そちらに視線をやると、げんなりした顔の友也くんと北斗くんが立っている。
「おや! もう目を覚ます時間のようですね、残念です」
「じゃあ、続きはまた夢でね」
彼女はそう笑って身体を起こす。ああ本当に、本当に、貴女の夢の中の私が心底憎らしい。