もしもの話
「渉って、すごく魅力的だよね」
ある日の昼下がり、珍しくお互い休日が被ったから家でまったりしていたところ、なんの脈絡もなく英智さんがそんなことを言った。渉と言うと、私の所属していた演劇部の元部長、日々樹先輩だ。
「えっと……はい、そうですね」
「渉って、完璧な男性だと思うんだ。僕がもし女の子だったら、好きになっていたと思う」
「……そうなんですか」
何が言いたいの、と急かすことはなく、ただ彼の話に耳を傾ける。英智さんが日々樹先輩を慕っているのは知っているけれど、もし女の子だったら惚れていただなんて恋人に言われて、正直良い気はしない。
「だから、きみはてっきり渉を好きなんだと思ってたんだ。ほら、演劇部も同じだったし、仲が良かっただろう?」
「へ……」
突然、そんな突拍子もないことを言われて、つい言葉を失った。彼は静かに微笑みながら、変な話を続ける。
「僕はきみを好きだったけど、でもきみが渉を好きなら、僕はどうするべきなんだろうってすごく悩んだことがあったんだ。大好きな人と尊敬する人が一緒になるなら、それが一番なんじゃないかってね」
「そんな……」
私が反論しようとすると、宥めるように頭をぽんぽんと撫でられてしまった。毒気を抜かれ、口をつぐんで彼の話を聞く。
「でも、世界で一番尊敬している渉にさえ、きみを譲りたくなかったんだ。だから、もしかするときみは渉と付き合ったほうが幸せだったかもしれないんだけど、どうか許してね」
「……そもそも、私、別に日々樹先輩のことは恋愛対象として見てません……。私がそばにいて幸せになれるのは、英智さんだけです。もしもなんて、ありません」
彼に詰め寄って、穏やかに微笑むその綺麗な顔にキスをする。すると彼は私を抱き寄せ、私の唇に噛み付いてきた。
「そうだね。きみは僕のものだもんね」
「そうですよ、だからちゃんと、幸せにしてください」
「ふふ、お安い御用だよ」
ぎゅう、とお互いを確かめ合うような抱擁をして、またじゃれつくみたいなキスをする。
あったかもしれないもしもなんてどうだっていい。ただ、目の前に貴方がいる今が、何よりもずっと愛おしいのだから。
ある日の昼下がり、珍しくお互い休日が被ったから家でまったりしていたところ、なんの脈絡もなく英智さんがそんなことを言った。渉と言うと、私の所属していた演劇部の元部長、日々樹先輩だ。
「えっと……はい、そうですね」
「渉って、完璧な男性だと思うんだ。僕がもし女の子だったら、好きになっていたと思う」
「……そうなんですか」
何が言いたいの、と急かすことはなく、ただ彼の話に耳を傾ける。英智さんが日々樹先輩を慕っているのは知っているけれど、もし女の子だったら惚れていただなんて恋人に言われて、正直良い気はしない。
「だから、きみはてっきり渉を好きなんだと思ってたんだ。ほら、演劇部も同じだったし、仲が良かっただろう?」
「へ……」
突然、そんな突拍子もないことを言われて、つい言葉を失った。彼は静かに微笑みながら、変な話を続ける。
「僕はきみを好きだったけど、でもきみが渉を好きなら、僕はどうするべきなんだろうってすごく悩んだことがあったんだ。大好きな人と尊敬する人が一緒になるなら、それが一番なんじゃないかってね」
「そんな……」
私が反論しようとすると、宥めるように頭をぽんぽんと撫でられてしまった。毒気を抜かれ、口をつぐんで彼の話を聞く。
「でも、世界で一番尊敬している渉にさえ、きみを譲りたくなかったんだ。だから、もしかするときみは渉と付き合ったほうが幸せだったかもしれないんだけど、どうか許してね」
「……そもそも、私、別に日々樹先輩のことは恋愛対象として見てません……。私がそばにいて幸せになれるのは、英智さんだけです。もしもなんて、ありません」
彼に詰め寄って、穏やかに微笑むその綺麗な顔にキスをする。すると彼は私を抱き寄せ、私の唇に噛み付いてきた。
「そうだね。きみは僕のものだもんね」
「そうですよ、だからちゃんと、幸せにしてください」
「ふふ、お安い御用だよ」
ぎゅう、とお互いを確かめ合うような抱擁をして、またじゃれつくみたいなキスをする。
あったかもしれないもしもなんてどうだっていい。ただ、目の前に貴方がいる今が、何よりもずっと愛おしいのだから。