夢も現も
「……昨日、不思議な夢を見たんだ」
英智さんは、突然そう言って私を見つめた。二人の間には、清潔な白いテーブルクロスの引かれた小さなテーブルが静かに立っている。そしてそのうえには、まだ中身の残った温かいティーカップが二つ。
私は人差し指と中指をカップの取手に滑り込ませ、音を立てないよう紅茶をひと口飲む。砂糖を多めにいれた紅茶は、甘くて胸がホッとする。
「どんな夢だったんです?」
私が話を催促すると、彼はニコニコ嬉しそうに笑った。いつまでも少年のような、無邪気な笑顔だ。普段は大人っぽく頼りになる彼だけれど、案外幼い一面もあるらしい。
「夢にはね、きみが出てきたんだ。背中に真っ白で柔らかい羽根を生やして」
「……ふぅん。それで?」
「うん、それで……ぼくの手を取って、雲の上に連れて行ってくれたんだ」
「はあ?」
つい、この場に似合わない不躾な反応をしてしまう。どうしてそんな夢を、彼はこんなに嬉しそうに話すのだろう。私が彼を殺している夢なのに。
私は目の前の温かなティーカップを指先で触れながら、言葉を選んで少しまごつく。
「……嫌ですよ、そんなの。英智さんを殺してしまうなんて」
「殺されたのかな? お迎えに来てくれたんじゃないの?」
「知りませんよ、そんなの。どちらにせよ嫌です、英智さんが死んじゃう夢なんて」
唇を尖らせ、まるで駄々を捏ねる幼子のようにそう呟いた。すると、ティーカップをいじっていた私の手に、英智さんの指先が触れる。そのまま指を絡め取られ、手を重ねた。英智さんの指先はほんのり温かい。
「でも、死ぬときや死んだあとにもなまえちゃんがいてくれたら、僕は嬉しいよ」
「……英智さんが長生きしたら、死ぬときも死んだあともそばにいてあげます」
「本当? なら長生きしなくちゃ、ふふ」
ぎゅ、と彼の手を握り返して、静かに伝わる脈拍に思いを馳せる。
貴方が早く死んでしまったら、私は残りの人生をいったいどう過ごせばいいの。私にそばにいてほしいと思うのなら、貴方だって私のそばにいなくちゃいけないでしょう。
……なんて、上手く言葉にはできないまま、いつかは終わってしまう現実を噛み締めた。
英智さんは、突然そう言って私を見つめた。二人の間には、清潔な白いテーブルクロスの引かれた小さなテーブルが静かに立っている。そしてそのうえには、まだ中身の残った温かいティーカップが二つ。
私は人差し指と中指をカップの取手に滑り込ませ、音を立てないよう紅茶をひと口飲む。砂糖を多めにいれた紅茶は、甘くて胸がホッとする。
「どんな夢だったんです?」
私が話を催促すると、彼はニコニコ嬉しそうに笑った。いつまでも少年のような、無邪気な笑顔だ。普段は大人っぽく頼りになる彼だけれど、案外幼い一面もあるらしい。
「夢にはね、きみが出てきたんだ。背中に真っ白で柔らかい羽根を生やして」
「……ふぅん。それで?」
「うん、それで……ぼくの手を取って、雲の上に連れて行ってくれたんだ」
「はあ?」
つい、この場に似合わない不躾な反応をしてしまう。どうしてそんな夢を、彼はこんなに嬉しそうに話すのだろう。私が彼を殺している夢なのに。
私は目の前の温かなティーカップを指先で触れながら、言葉を選んで少しまごつく。
「……嫌ですよ、そんなの。英智さんを殺してしまうなんて」
「殺されたのかな? お迎えに来てくれたんじゃないの?」
「知りませんよ、そんなの。どちらにせよ嫌です、英智さんが死んじゃう夢なんて」
唇を尖らせ、まるで駄々を捏ねる幼子のようにそう呟いた。すると、ティーカップをいじっていた私の手に、英智さんの指先が触れる。そのまま指を絡め取られ、手を重ねた。英智さんの指先はほんのり温かい。
「でも、死ぬときや死んだあとにもなまえちゃんがいてくれたら、僕は嬉しいよ」
「……英智さんが長生きしたら、死ぬときも死んだあともそばにいてあげます」
「本当? なら長生きしなくちゃ、ふふ」
ぎゅ、と彼の手を握り返して、静かに伝わる脈拍に思いを馳せる。
貴方が早く死んでしまったら、私は残りの人生をいったいどう過ごせばいいの。私にそばにいてほしいと思うのなら、貴方だって私のそばにいなくちゃいけないでしょう。
……なんて、上手く言葉にはできないまま、いつかは終わってしまう現実を噛み締めた。