「もし良ければ、お茶しに来ませんか?」

いつもの可愛らしい声で、創くんはそんなお誘いをしてくれた。実は最近、英智さんや創くんの影響で紅茶に興味がわいていた。そこで創くんが、飲みやすいものもいくつかあるから一度紅茶部へ飲みに来ないかと誘ってくれたのだ。

「良いの? うれしい、ありがとう」
「ええ! とっておきの紅茶を用意しておきますね♪」

そうして数日後、改めて紅茶部へ招待してもらった。せっかくなのでお気に入りのケーキ屋さんでお菓子をいくつか買ってガーデンテラスへ向かう。

「あっ、なまえさん! こんにちは、待ってましたよ」

涼やかで綺麗な声が私を呼ぶ。柔らかな太陽の差し込むガーデンテラスには、どうやら創くんしかいないらしかった。

「あれ? もしかして、お菓子を買ってきてくれたんですか?」
「うん、手ぶらで来るのも失礼かなと思って……今日は英智さんも凛月くんもいないの? ちょっと余っちゃうかもだね」

彼に案内されるまま、ガーデンテラスの一席に腰を下ろす。どこでも人の多い夢ノ咲だけど、今日のガーデンテラスには人の気配がない。まるでおとぎ話の中のような、静かで穏やかな空間だ。

「英智お兄ちゃんは、スタプロのお仕事が忙しいみたいです。凛月お兄ちゃんも、Knightsのお仕事がひと段落したばかりで疲れているみたいで……今日はふたりっきりですね」

彼はそう言ってくすりと微笑んだ。一瞬、「男の子」らしい顔をした気がした。私がつい言葉を失ってしまうと、彼はティーカップを私の前に置き、また笑ってくれた。

「砂糖も用意してありますから、もし苦くて飲めないようなら好きなだけいれてくださいね。まだ熱いので、ふぅふぅしてから飲んでください」

彼は可愛らしくそう言いながら、私の目の前のティーカップに紅茶を注ぐ。白い陶器のカップの中に、まさに紅く香ばしいお茶がとっぷりと収まっている。

目の前に腰掛けた創くんとティーカップを交互に見て、少し緊張しながら小さな取っ手に人差し指と中指をかけた。湯気のたつ紅茶を、彼の言うとおり「ふぅふぅ」と少し冷ましてから、音を立てないよう飲んでみる。

「ん……」
「に、苦かったですか?」
「う、ごめんね、ほんとに苦いの飲めなくて……」

きっと苦味の少ないものを選んでくれたはずなのに、情けないことにやはりどうしても苦味を感じ取ってしまう。

創くんは一瞬心配そうな顔をしたあと、くすくす笑ってくれた。それから、角砂糖の入った器の蓋を取って、私の方へ寄せてくれる。

「甘いほうが好きですか? 好きなだけ甘くしてくださいね」
「……うん。ありがとう、創くん」

砂糖をふたつ、みっつ入れてからかき混ぜてチャレンジしてみると、口の中に甘い味が広がった。ほわ、と私の顔が緩んだのを見て、創くんも安心したように笑う。

「ふふっ、意外と甘党なんですね。可愛いです」
「か……可愛いのは創くんみたいな子のことを言うんだよ。私が苦いの飲めないのは、かっこ悪いっていうか、情けないというか……」

ひとつとはいえ、年上なのに。そんな小さな意地が、ちくちくと私の罪悪感をつついてくる。

すると不意に、テーブルの上に置いていた私の手に創くんの手が重ねられた。驚いて彼を見ると、いつもより少しだけ大人っぽい微笑みで見つめられている。どき、と一瞬心臓が高鳴った。

「可愛いですよ、なまえさんは。それに、甘いのが好きなほうが嬉しいです。ぼく、お兄ちゃん達みたいに苦くてかっこいいのはまだ練習中なので……でも、甘いのならいくらでもあげられます」

優しく、やわらかく、彼の指先が私の手の甲を撫でる。胸焼けがするほど甘い空気に、上手く息が出来なくなりそうだった。それでもどこか心地好くて、ふわふわと宙に浮いたままのような気分で、ただ創くんの悪戯っぽい微笑を見つめていた。

「また、ふたりっきりでお茶してくれますか?」

指を絡め取られ、藍色の瞳に惹き付けられる。私は情けないほど真っ赤になったまま、こくんと頷くことしか出来ない。口の中も胸の奥も、全部甘い砂糖水に漬けられたみたいに痺れていた。