端的に言えば、彼女は都合が良かった。

めんどくさがりで、連絡も頻繁にはして来ない。俺が仕事を優先しても、拗ねたりへそを曲げたりしない。たまに拗ねてしまっても、美味しいものでも食べさせてやればすぐに上機嫌になる。贈り物はお互いしないし求めない。そういう扱いやすい女だった。

でも、ここのところ、何故か彼女を見ていると腹の奥がムカムカする。返信が遅いとそわそわする。電話に出ないと腹が立つ。ひとりでするとき、彼女の顔がちらつく。

「茨、イライラしてるね」

キャミソール一枚と下着だけのだらしない姿で、彼女は俺に擦り寄った。ソファに腰掛けた俺の膝の上にまたがって、好き勝手俺の頭を撫でている。

「……イライラしてる人間を雑に撫でないでくれます?」
「仕事で何かあったの?」

彼女の細い腰に腕を回して、露出した肩口に噛み付く。彼女はくすぐったそうに笑っている。また腹の奥がもやもやした。

「あんたのことで悩んでるんです」
「私? ……どうして?」
「…………もし俺が、別れましょうって言ったらどうしますか?」

ぎゅ、と彼女を抱く腕に力を込めて真面目にそう問いかけると、彼女は間抜けな顔で首をかしげた。そして、うーん、と間延びした声で悩んでから、けろりと笑って軽い調子で問いに答える。

「まぁ、茨が言うなら仕方ないかなぁ」

その返答に、ようやく自分の腹のムカつきの正体を悟った。だからわざと、素っ気ない返事をした。

「へぇ、そうですか」
「変なこと聞くね、別れたくなった?」

呑気な様子の彼女をソファに押し倒し、そのまま噛み付くようなキスをしてやった。きゅ、と眉を寄せて、睨みつけるように彼女を見下ろす。

「言っときますけど、あんたが別れたいって言っても俺は別れませんからね」
「……ふふ、じゃあ一生別れられないね」

幸せそうに笑う彼女は馬鹿っぽくて間抜けだ。いつからかそんな馬鹿面が、自分の生活に根を張っていた。

……俺は、彼女を手放すのが怖いとか、彼女が俺に執着を見せないことが不満なのだ。まあこんなこと、癪だから死んでも言ってやらないけど。