家に帰るととうに日付は越えていて、飯を食う気力もなく、かろうじてシャワーだけ浴びたらすぐベッドに向かう。広いベッドでは、小さく身体を折りたたんだ彼女が隅の方で眠っている。

 そっとベッドの中に入り、ぎしりとスプリングが軋んでも、彼女は目を覚まさない。彼女の寝顔を覗き込むと、ほんの少しだけまつ毛が濡れていて、頬に涙のあとがあった。

 彼女と同棲を初めてもう三年になる。最初こそ幸せを噛み締めていたが、ここ最近は深夜のラジオ収録やら遠方へのロケやらで中々ゆっくり顔を合わせられていない。

オレは深夜に帰ってきて、彼女は早朝に仕事に行ってしまう。ただ唯一、朝食と弁当にそれぞれ彼女がメモを書き残しておいてくれることだけが救いだ。

「……オレ、こんなんであんたのこと幸せにできるんすかね」

こちらに背を向けたままの彼女の髪を撫でると、彼女の肩がぴくりと動いた。んん、と眠たげな声と共に、彼女の身体がこちらを向く。

 起こしてしまったかと黙っていると、彼女のまつ毛がほんの少し震えて、ゆっくりと目蓋を開いた。

「……ジュンくん……おかえりなさい……」
「すみません、起こしちまって」

ううん、と彼女は少しだけ微笑む。乱れた横髪を耳にかけてやると、ごそごそと彼女がオレのほうに身を寄せた。

「ふふ、幸せ」

オレの胸板に擦り寄って、彼女はふにゃりと笑う。ただそれだけのはずなのに、なぜだか喉の奥が熱くなって涙が溢れてきた。ごくりと唾を飲み込み、嗚咽が漏れないようにしながら彼女を抱き寄せる。

 何もしてあげられないのに、とてもじゃないが幸せになんてしてやれてないのに、ただこうして身を寄せ合ってるだけで「幸せ」だなんて。

「……大好きだよ、ジュンくん」

蕩けた声で、彼女は寝惚けながらそう言った。ぐしぐしと涙を乱暴に拭って、確かめるように彼女を抱き締める。

「オレも、愛してますよ」

 ――明日から、茨に頼んで早めに帰れるようにしてもらおう。それから彼女の休日に合わせて有給も取ろう。無欲で健気な彼女に、もっとわがままになってもらうために。彼女を、もっとちゃんと幸せにするために。