「……」

ただいま、を言う気力もなく靴を脱ぎ捨てリビングへ行く。いつもソファで寛いでいる彼女の姿が見当たらず、きょろきょろと部屋を見回す。

すると、夜風に吹かれたカーテンがふわりと靡いた。どうやら窓を開けてベランダにいるらしい。

ベランダに出ると、柵に身体を預けて煙草を吸っている彼女を見つけた。後ろから抱きついてみると、彼女はふいと煙草を俺から離す。

「茨。おかえり、遅かったね」
「……疲れた」

ぶっきらぼうに、顔を彼女の肩口に埋めたままそう呟く。彼女は煙草の火を消して携帯灰皿に捨てると、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「お疲れさま、よく頑張ったね」
「ガキ扱いしないでくれます?」
「ふふ、してないよ」

すり、と彼女が俺に頭を擦り寄せる。少し身体を離すと、彼女は振り返って俺に向き直った。夜風に吹かれて、黒髪がひらりと揺れる。白い頬に手を添え、そのままキスをした。

「……苦」
「吸ってたからね。嫌?」
「別に……気にしません、今更」

もう一度、柔らかい唇を食む。彼女は俺のなすがままに身を委ねて、微かに笑っていた。

「……甘えんぼさん。赤ちゃんみたい」
「うるせぇ、疲れたんですよ」
「うん、お疲れさま。……中、入ろ?」
「ん……」

ぎゅう、と彼女を抱き竦めて、息を吐く。シャンプーの甘い香りに混じって、苦い煙草の匂いがする。彼女の柔らかな肌に触れて彼女の香りを胸に吸い込むと、なんだか一気に肩の力が抜けてしまうのだ。

ずるずると、抱きついたままリビングへ入ると、そのまま寝室まで運ばれた。

「茨」

彼女の声が俺を呼ぶ。ああ、眠い。たまらなく眠い。白い手が俺の眼鏡を外すと、視界がぼやけて、彼女の表情が見えなくなった。

「なまえ……一緒に、寝て……あんたも、」

ほとんど寝ているような意識の中、ふわふわと言葉を浮かべる。彼女はくすくす笑って、その手で優しく俺の瞼を閉じさせ、キスをしてきた。

「大丈夫、一緒にいるよ。……おやすみ、茨」
「……ん、」

とてもじゃないが、こんな姿、他人には見せられない。それでも彼女を前にすると、どうにも気が緩んでしまうのだ。

――どんどん意識が溶けだしていく。ただすぐそばにある彼女の体温を感じながら、気付けば心地よい夢の中へ沈んでいた。


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