コンコン、と病室のドアを軽快にノックする。腕の中を花束を抱え直し、私は重い気持ちで病室に入った。白いベッドには、最愛の人が横たわっている。……眠っているらしい。

あまり良くない顔色を見て、思わず小さく溜息をついた。少し、やつれたように見える。細く白い手首には点滴の針が刺されていて、ピッ、ピッ、と無機質な心音計の機械音が部屋に響いていた。

ベッド脇にある椅子に腰掛ける。彼がこうして倒れて入院するのは、もう珍しいことでもない。でもだからと言って、こんなこと、慣れるはずがない。

「……英智さん」

アイドル、辞めないの? ……なんて、言えるはずがない。

好きなことをして死んでしまうことと、好きなことすら出来ず退屈に長生きをすることと、どちらがより良いかなんて他人が決めていいことではないのだから。

「……なまえ? ……どうしたの?」
「あ、」

ぽたり、涙が溢れたところで、英智さんはゆっくりと瞼を上げて私を見た。私が慌てて涙を拭うと、彼は穏やかに微笑んで、私の頬に手を伸ばす。

「怖い夢でも見たのかな」
「……もう、子供扱いしないで」
「ふふ、ごめんね。大丈夫だよ、こう見えて結構元気なんだ。……お花、持ってきてくれたの?」

うん、と頷いて、頬に添えられた彼の手に寄り添う。彼の柔和な瞳は、ちらりと私の持ってきた一輪の薔薇を見たあと、また私に向けられた。

「ありがとう、嬉しいよ。……渉に影響された?」
「そうかもね。薔薇なんて……でもどうしても貴方に渡しておきたくて」
「それは、どうして?」
「……」

彼の真っ直ぐな視線に、まるで自分の身勝手さまで見透かされている気がして、少し怯んでしまう。一呼吸置いて、私に触れていた彼の手を握りしめた。

「どんな貴方でも愛してるって、知っておいてほしいの。……とりわけ、笑っている英智さんが一番好きよ」
「……うん。ありがとう」

英智さんは、私が何を考えているのか悟ったように、穏やかにそう答えた。私は彼の手のひらにキスをして、ほんの少しだけ、泣いた。

貴方が幸せなら、それでいいの。貴方を失うことはとても怖いけれど、私の寂しさや不安が貴方の幸福を奪うことのほうがずっと怖い。

だから、私の不安も寂しさも捨ておいて。私が貴方を誰より愛していることだけ、貴方が知っていてくれさえすれば、それだけで構わないから。


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