早朝、あまりの暑さで目が覚めた。ふと天井を見上げると、エアコンが妙な音を立てている。隣で眠る彼女も暑いのか壁にくっついて眠っていた。俺が体を起こせば、物音に気づいて彼女も目を覚ました。

「ん……あつい……」
「エアコン壊れてません……?」
「ええ……うそ、」
「いくらなんでも暑すぎる……」

ため息混じりにそう言って、汗ではりついた服をぱたぱたと扇ぐ。隣を見ると、薄暗闇のなかで彼女が笑っているのが見えた。

「このまま寝たら、ふたりとも熱中症で死んじゃうね」
「……腐りますよ。たぶん。誰にも気付かれずに」

 暑いのに、汗ばんだ手を重ねて指を絡めた。彼女の顔は鮮明には見えなかった。けれど、口では笑いながらも泣いているらしいということはなんとなくわかった。

「腐っちゃったら……私と茨、混ざってぐちゃぐちゃになっちゃうね」
「そうですね」
「そしたら、切り離せないからお葬式も一緒にしちゃおうよ。なんだか結婚式みたいで素敵じゃない?」
「……本当、馬鹿ですよね、あんたって人は」
「あはは」

ぐす、と何度も鼻をすする音が聞こえた。この日彼女は、病気になってから初めて俺の前で泣いた。俺はただ、手探りで彼女の頭を撫でてやることしかできなかった。

 ――日が昇ってから、近くのリサイクルショップまで行き、古い扇風機を買った。エアコンは効きが悪いだけで壊れてはいないらしく、時折これでもかというほど狭い部屋を冷やす。が、やはり真夏にエアコンが効きにくいのは死活問題だということで、結局新しく扇風機を買わざるをえなかったのだ

「われわれは〜うちゅうじんだ〜」
「小学生ですかあんた」

 古びた扇風機の前で、彼女は陽気に馬鹿げたことをする。その目元は微かに赤く腫れていた。

「いくつになってもやりたくなっちゃうよね、面白くて」
「面白……いか……?」
「面白いよ〜、ほら茨もやってやって」
「あっはっは! 死んでもやりません」

 七月が終わる。彼女が死ぬまであと二ヶ月もない。壊れかけの扇風機でさえ、きっと彼女より長生きするんだろう。それが俺は何より怖い。彼女が死んだあと、遺されるものがあることが。

 その日彼女が吐いたのは真っ赤なヒガンバナだった。