「……ふぅ」

 夏も終わり秋めく頃、彼は家具をほとんど売り払った小さなアパートで窓を開けて掃除をしていた。二人が三ヶ月間ため続けたたくさんの花々を、全部ゴミ袋につっこんでいた。45リットルのゴミ袋の二袋分、案外軽いゴミ袋を持ち上げて、彼はアパートの前にあるゴミ捨て場に運んだ。

「…………こまめに捨てておけば良かったんですけどね」

 まだ花々は美しく咲き誇っていた。けれどそんなことは最早どうでもよかった。

 彼は綺麗になったアパートを引き払い、まるでこの短い三ヶ月などなかったかのように平然と、元の生活に戻った。



 蝉が死んだら秋が来る。秋が過ぎれば冬がくる。春も夏もまた巡ってくるけれど、ふたりが過ごした三ヶ月はもうやって来ない。

「茨、本当にもう復帰して大丈夫なの?」
「閣下。ええ、大丈夫ですよ。……本当に。そういうのは全部、彼女と一緒にまとめて焼いてもらいましたから」
「……それは……悲しいことなんじゃないかな」
「まさか。永遠の愛を棺桶に詰めてやっただけですよ。なんて、少しロマンチストすぎますが、まぁ彼女好みで良いでしょう」

 彼はそう言って、くしゃりと笑った。前より少しだけやつれたその左手には、銀色の指輪が輝いていた。


おしまい。