今日は10月31日、ハロウィンの日。私の国ではハロウィンに盛大な祭りが開かれる。私の住む村も例外ではなく、ハロウィンともなれば皆仮装をしてランタンを持ち近所の家を訪ね回るのだ。

 ハロウィンは伝統的な行事で、幾つか奇妙な言い伝えがあったりする。中でも祖父母の世代から強く言い聞かされているのは、零時になるまでに家に帰らなければならないということ。

なんでも日付が変わる頃に見知らぬ土地にいると、そのまま此処とは違う世界に迷い込んで帰ってこられなくなるらしい。……なんて、どうせハロウィンに子どもが夜遅くまで出歩かないよう作られたデタラメだろうけど。

 でもこれの奇妙な点は、少なくとも私の村では、いい歳をした大人でさえ10月31日の午前0時には家に必ずいるということだ。そして、実は年間の行方不明者が急増するのがちょうどこの日付らしいということも、真偽は定かではないけれど奇妙だ。

 でも、午前0時まで外にいることなんて早々ない。皆十時頃には家に帰るから、ハロウィンの夜は案外短いのだ。一人きりで0時まで遊び呆けるほうが難しい。だから言い伝えの真偽がどうであれ、正直関係ない。

「あらあら、今年は魔女の仮装? 可愛いわね」
「うん。黒猫と迷ったけど、魔女のほうがかっこいいかなって。似合う?」

自分で作った黒いワンピースと帽子。ひらりとその場で一回転してみせると、お母さんはくすくす笑った。

「うんうん、似合ってるわよ。ちゃんとランタン持って行きなさいね、お菓子は食べすぎないこと。それから一番大事なのは……」
「わかってるよ。0時までに帰ること、でしょ?」

にこ、と笑うと、お母さんは優しく笑って私の頭を撫でてくれた。

「えぇ、気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます!」

ブーツを履いて、火のついた小さなランタンを持ち、外へ出た。もう夜はかなり寒い。けれど、そこら中でジャック・オ・ランタンが光る村は、何だか浮き足立っていて寒さも気にならない。

私の住む村は小さくて、少し歩くともう少し栄えた街につく。村の子どもは大抵そこまで行って、沢山お菓子をもらってくる。誰かの置いたランタンが照らす道を真っ直ぐ歩いて森を抜けると、村とは比べものにならないほど賑やかな街が見えた。

「よし、今年もお菓子沢山貰おう……って、きゃあっ!?」

街に入ろうとしたところで、足もとを黒猫が走った。踏んづけそうになって思わず足を止めて、そのまま一人で転げてしまう。

「ねっ……猫ちゃん! わぁ、待って待って!」

黒猫は、一瞬私を振り返ったあとすぐに逃げてしまった。猫は中々目にする機会がないから、ついなりふり構わず追いかけてしまう。

あわよくばあのもふもふを撫でてみたい、にゃあって鳴く声を聞いてみたい、ぷにぷにの肉球を触ってみたい! ……と、幼子のような欲求だけを胸に猫を追いかけた。

「はあっ、はあ……猫ちゃん、どっか行っちゃった…………あれ、ここ何処だろう……」

猫を追いかけて森の中を走っていると、とうとう猫を見失ってしまった。街から少し離れてしまったみたいだ。でも村と街はそんなに離れていないし、適当に歩いていればどちらかに着くはず。一旦息を整えてからさくさくと草を掻き分けて歩き出した。

「……はあ、良かった。街に出たみたい……」

暫く歩くと街灯や家の明かりが見えてきた。近付くと、沢山の仮装した人がハロウィンを満喫している。私もちゃんと楽しもう、と意気込んだところで後ろから大きめの声が聞こえた。

「も〜っジュンくんってばうるさいね! せっかくのハロウィンなんだから好きにさせてほしいね!」
「わっ!?」

ドンッ、と強い衝撃で前に倒れる。本日二回目の転倒だ。見れば、何やら悪魔の仮装をした男の人がきょとんとした顔でこちらを見下ろしている。

顔立ちの整った彼は、私と後ろにいるオオカミ男の仮装をした男の人とを交互に見てから、にこっと笑顔をつくった。

「ぶつかっちゃったみたいだね! 怪我はない? 可愛い魔女っ子さん♪」
「ちょっとおひいさん、その子……」
「ジュンくんは黙っててね! 立てる?」

差し伸べられた手を取って立ち上がる。スカートの土埃を叩いてから、改めて目の前の彼と目を合わせた。村は勿論、街でも早々見ないような綺麗な顔立ちの人。悪魔と言うより天使みたいだ。

「ぼくに見とれちゃった? うんうん、当然だよね! それで、可愛い魔女っ子さん。ハロウィンの夜だけど、ぼくに何か言うことがあるんじゃない?」
「え? ……えっと、ぶつかってごめんなさい……?」
「うんうん! 全然違うね!」
「えっ……あ、トリックオアトリート!」

私がそう言うと、彼はにっこり笑って手を差し伸べた。何も持っていない手を見つめると、彼はパチンと指を鳴らしてどこからともなくキャンディを出した。

「わあ……! すごい、魔法みたい!」
「ふふ、そうだね。魔法みたいだね♪」

突然現れたキャンディを受け取り、持っていた鞄の中に入れる。すると彼は手のひらを私に見せるように突き出して、にっこり笑った。

「じゃあぼくも、トリックオアトリート、だねっ」
「あ……ご、ごめんなさい、私いまお兄さんにもらったのしか……」
「え〜っそうなの? じゃあトリックだね! ほらほら、着いてきてね!」

優しく、でも有無を言わさず手を取られる。都会の人ってなんだか自由で楽しそうだなぁ、なんて呑気なことを考えながら、私は彼に手を引かれるままハロウィンの街を回った。

お兄さんは日和さんというらしい。そしてお兄さんの召使いのような弟のようなひとが、ジュンくんというそうだ。二人の関係はよくわからないけれど、でもとっても仲良しみたいだ。ただ、ジュンくんがずっと浮かないような、何かを心配するような目で私を見ているのが気になった。

二人と一緒に回るハロウィンはとっても楽しくて、沢山のお菓子でカバンはパンパンになっていた。……私はこの夜、時間も忘れて遊んでいたのだった。