手を引かれ、お皿もそのままで席を立たされた。ジュンくんは慣れたように溜め息をついて、お皿を片付けてから日和さんの後を追う。

 連れられたのは、さっき私が目を覚ました部屋だった。けれど、起きたときにはなかった紙袋が数えきれないほど床に置かれている。

「よしっ、じゃあ始めるね。お着替えタイム! 服や肌着やアクセサリー、小物にメイク道具までたくさん買ってきたから、全部着てみようね!」
「……オレいります?」
「ぼくは待ってるから、ジュンくんが着せてあげてね!」
「はあ!? ……あぁもう、わかりましたよ。じゃあ脱いでください、どれからいきます?」

勝手に進んでいく話の中、流石に男の人に肌を見せるなんてしたくないので慌てて後ずさった。日和さんは大きなベッドの縁に腰掛けて、ニコニコ笑っている。

「ふ、服なら自分で着られます……!」
「…………いや、無理でしょ。あんたまだ19なんだから……」
「人間での19とモンスターでの19、絶対違いますよね!?」
「じゃあこれとか、一人で着れるんすか?」

ジュンくんが紙袋から出してきたのは、お姫さまが着るような可愛らしいドレスだった。受け取って広げてみるけれど、どこに頭を入れてどこをどうすればいいのか全くわからない。

「あのね。きみは確かに行くあてのないただの無力な人間だけど、ぼくが保護するからには一人前の装いをしてもらわなきゃだね。恥ずかしいならジュンくんは出てってもらって、ぼくがやってあげるね。どうしたい?」

日和さんはそう言って、真剣な眼差しで私を見つめた。確かに一人では着られそうにないし、着れたとしてもきっと不格好になってしまうだろう。少しだけ唸りながら悩んで、もごもごと下を向いたまま声を出す。

「ひ、日和さん、お願いします……」
「そういうことなら、オレは部屋で休んでますねぇ」
「うんうん、お着替えが住んだら街に行くから、準備しておいてね! あと紅茶も飲みたいね!」
「はいはい、わかりましたよ」

ジュンくんは面倒くさそうにそう言って、部屋から出ていってしまった。日和さんは私の手からドレスを取り上げて、ポンと私の方に手を置く。

「じゃあとりあえず脱いでね! 大丈夫、流石にきみくらい幼い子に欲情したりしないからね!」
「う……うぅ……!」

悔しいような、有難いような、恥ずかしいような。さっきからまるで五歳そこそこの子どものような扱いを受けている気がする。彼らから見て、私ってそんなに子供っぽいのだろうか。

もやもやしながら服を脱ぎ、日和さんが買ってきたものを次から次へと着せ替えられる。服を決めたらお化粧、それが済んだら髪飾りやイヤリングを選んで、髪型を整えて、もうへとへとになった頃にようやく着せ替えタイムが終了した。

「うんうんっ、この路線だね! きみ思ったより胸がないから、清楚な感じのほうがよく似合うねっ」
「そうですか……」

最早怒る元気もなく、胸がちょっと控えめなのは事実なので力なく項垂れた。日和さんは私の顔を上げさせ、じっくり私の全体像を観察する。

「ふふ、可愛いね。これからお外に出るけど、今後外出するときには必ず、これを付けていてね」

日和さんはそう言って、私の首元にチョーカーを付けた。ふわりと甘い薔薇のような香りがする。

「ジュンくんから聞いたかな。モンスターはね、基本的に人間を殺そうとするの。理由は様々だけれど……とにかく人間だと知られたらきみは殺されちゃうね」
「……そうなんですね」

「これはぼくの魔力が込めてあるからね。これさえしていれば、きみは一見魔力を持っているように見える。人間とモンスターの明確な違いって言うのは、魔力があるかないか、この一点に尽きるからね。詳しいことはまだわからないでいいけど、もし誰かに何者かを聞かれたら、こう答えなさい。『巴日和の番で、魔法使いです』と」
「つがい……?」

番、という聞きなれない単語を反復すると、日和さんはくすりと微笑んだ。そして滑らかな指先で私の横髪を耳にかけ、じゃれつくように唇を耳元に寄せる。

「ぼくのお嫁さん、ってこと♪」
「ひゃ……、ぇ、な、なんでですか?」
「うふふ、まっかっかだね! 理由は沢山あるけれど、それが一番きみにとって都合がいいからだね。きみがもっと大人になったら、教えてあげるね」

日和さんはそう言って、優しく私の頭を撫でた。お嫁さん、なんて言うくせに、やっぱり幼子を相手にしているような対応をする。別にそれで構わないはずなのに、なんだか少し胸がもやもやした。

「よしっ、それじゃおめかしも済んだことだし、そろそろお外に行こうね! 家族にきみのこと紹介しなくちゃだし♪」

窓の外ではまだ太陽が眩く輝いている。時刻は午後三時。私は日和さんに手をひかれ、ジュンくんも一緒にモンスターのごった返す街に繰り出した。