「ふぅん……つい昨晩出会って、番になって…………随分急だったんだね。一目惚れみたいなものなのかな」

お屋敷の中庭で、綺麗なテーブルを囲んだ。日和さんが大体の経緯を伝えると、凪砂さんはどことなく上機嫌そうな顔をした。

「そうだね、まさしく一目惚れだねっ」
「殿下は番を作る気などないと思っていましたが……いやはや、おめでたいことであります!」

赤色の髪をした黒猫の彼は、茨さんと言うらしい。どうもジュンくんと同じくらいの歳で、凪砂さんと茨さんは日和さんとジュンくんのような関係のようだ。召使いではないけれどなんだかんだお世話をしていて、まるで本当の兄弟のように信頼しあっているように見える。

「日和くん。本当におめでとう。……きみが生きることに前向きでいてくれると、私も嬉しい」
「……うん。でも子供は作らないね」
「そうなの? ……どうして?」
「欲しいと思えないからね。番を持っても、子供は欲しくない。ぼくにはこの子さえいればいいね。いつか死んでしまうまで、ぼくはこの子を一心に愛でてあげる。でも後には何も残さないね」

日和さんはそう言って、私の頭を撫でた。一瞬交わった視線が、とても嘘をついているようには見えなくて、つい混乱してしまう。

「……そう。もし気が変わっても、私はいつでも日和くんの味方だから」
「うんうん、ぼくもいつだって凪砂くんの味方だね!」

凪砂さんと日和さんは、それぞれ茨さんとジュンくんに対する関係より、何か深いものがある気がした。どっちの方が仲がいいという話ではなくて、何か、二人にしかわからない共通のものがあるような……私には到底推し量れないけれど。

「……ところで、ジュンはそのまま一緒に住み続けるので?」
「え? まぁそっすね。……えっ、オレもしかして追い出されるんすか?」
「あっはは! そんなわけないね! ジュンくんにはこれからもお世話をしてもらわなくちゃだからね♪」
「ですが殿下、ジュンは自分と同じ、獣人ですよ。メスを同じ屋根の下に住まわせるのは危険では? 正直、あなたがたの痴話喧嘩は見たくありません」

獣人、という聞きなれないフレーズが新しく飛び出てきた。メスというのは私のことだろう。茨さんの言葉に対して、ジュンくんはちょっと気まずそうな顔をしていた。

「……それもあって紹介しに来たんだよね。ジュンくんの発情期は三ヶ月に一度。そのときだけはこの子を預かって欲しいね」
「えっ? ……待って、発情期って……?」

よくわからない言葉に反応すると、凪砂さんが少し意外そうな声を出した。

「あれ、知らないの? ジュンや茨みたいな獣人系のモンスターは、定期的に発情期を迎えるんだよ。二人ともそろそろ番を見つけてもいい歳頃だけど……」
「自分は発情期でも問題なく生活できますので!」
「オレは……まだ考えられないっすね、番なんて」

よくわからないけれど、月のものみたいな感じだろうか。その、発情期……というものになる間は、私がいると問題があるらしい。

「……日和くんの頼みなら構わないよ。そのときにはまた、よろしくね」
「ありがとう、凪砂くん」
「ありがとうございます……」

いまいちよくわからないけれど、どうやら凪砂さんは味方と思っていいみたいだ。こんなに親しい人にまで私の正体を偽るのには少し疑問もあるけれど、それくらい、バレるとまずいことなんだろう。


そのあとは他愛もない話をして、夕食もご馳走になってから帰宅した。帰宅後は、入浴してから髪を乾かすのも忘れて気がつけばぐっすり眠ってしまっていた。