――色々と考えることはあるけれど、一夕一朝で答えなんて出るはずもない。今はとにかく日和さんのことを知ろう、ということで、結局さほど変わりない毎日を過ごしていた。

 今日は久しぶりに一人で買い物に行く。何を買うかはまだ決めていない。ただ少し気分転換がしたかった。

「ちょっト、そこのお嬢サン」
「んわっ」

街中を歩いていると、不意に後ろから肩を叩かれた。振り返ると、帽子を被った青年が私をジッと見つめている。何か立派な杖のようなものを持っているし、帽子の形や長いマントからして、如何にも魔法使いっぽい風貌だ。

白いメッシュの入った赤髪の青年は、ニコッと人当たりのいい笑顔を浮かべる。

「驚かせちゃったかナ? ボクは逆先夏目。魔法使い兼占い師なんダ。もし良かったらキミのこと占わせてくれなイ? お金とかは取らないからサ」
「占い師……タダで占ってくれるんですか?」
「ウン、どうやら悩みごとがあるみたいだネ。恋人……いや、番のことかナ」

はちみつ色の瞳はまるで心を見透かすように真っ直ぐ私を見つめている。実際日和さんについては少し行き詰まっているような節があるし、お金もかからないのなら一度占いをしてもらうのもいいかもしれない。

 そうして彼に手を引かれ、近くの館に招かれた。のこのこ着いてきて大丈夫だったのかな、とほんの少し不安にはなりつつも、大人しく彼の後ろを着いて行く。綺麗なお屋敷に入ると、一番奥の部屋に通された。

「さテ……色々と聞かせてもらおうかナ。キミ、どうして魔法使いでもないただの人間なのにこの世界にいるノ?」
「え……」
「あァ、怯えなくていいヨ。ボクも人間だからネ……魔法使いではあるけれド。とにかく他のモンスターみたいにキミを害することはないかラ。安心しテ」

 彼は、そう言って私を椅子に座らせ、テーブルを挟んで向かいの椅子に腰掛けた。私は逃げるべきなのかもわからず、ただ黙って座っていることしかできなかった。

「ボクはキミの敵じゃなイ。……そのチョーカー、あの巴センパイからもらったモノだよネ? 悔しいけどよく出来てル。渉兄さんからキミの話を聞いていなかったら騙されてたヨ」
「渉……って、日々樹渉さん?」
「そうだヨ。渉兄さん伝てにキミのことを聞いタ」

 あの雨の日に訪ねてきた天使の日々樹さん。彼に正体なんてバレてないと思っていたけれど、あの短いやり取りの中で見破られていたらしい。もしかすると、私が思っているよりも私の正体はバレやすいのかもしれない。

「単刀直入に訊くけド……キミ、巴センパイに何カ、理不尽なこととかされてなイ? もし不当な扱いを受けているならボクがキミを保護するシ、キミが望むなら元の世界に帰してあげル」

 夏目くん、は真剣な顔でそう言った。魔法使いは元々人間の世界で生きていた人がなるものだって、日和さんが言っていた。夏目くんも人間だからこそ、きっと私の噂を聞きつけて気遣ってくれたのだろう。

 元の世界に帰すと言う提案を聞いたとき、私の心はやっぱりざわざわとさざめいた。

「日和さんは私によくしてくれてます。不当な扱いなんてありません」
「それなら良いけド……元の世界へは帰らないノ?」
「……私……わかりません。最初は来年のハロウィンに帰れると思って過ごしてたんです、でも……本当にそれで良いのかなって……自分でも自分がどうしたいのかわからなくて」
「フゥン……なるほどネ、なら今度こそ占いの出番かナ」
夏目くんはそう言うと、綺麗な水晶玉を机の上に置いた。
「この水晶はキミの未来を映し出すものダ。サァ、覗いてご覧。キミの見たいものが見られるはずだヨ」

彼が手をかざした水晶を覗き込み、透き通ったその中身を見る。すると、最初は透明だった水晶の中がゆらりと歪んだ。そこに映し出されたのは――

「……どうかナ? 答えは出タ?」
「…………はい」
「ウン、それなら良かっタ。もしこの先また迷うことがあれバ、いつでもボクに会いに来テ。同族のよしみで占ってあげル」
「ふふ、ありがとう」

 夏目くんは私の顔を見て優しく笑い、あっさり私を帰してくれた。彼の屋敷を後にして、行きつけのカフェでサーモンのキッシュをテイクアウトし、足早に家に帰る。早く、少しでも早く、日和さんに会いたい。