◇Inside His Mind◇
綺麗なものは傍に置きたい。気に入ったものは手の中におさめていたい。アクセサリーも服も食器も食べ物も、生き物も。
ジュンくんは、彼がまだ子どもだった頃、雨の日の森の中で拾った。宝石みたいな瞳がきれいだと思った。拾い上げて綺麗にしてやれば、ジュンくんはぼくが思っていたよりずっと輝きを放つようになった。
凪砂くんやジュンくんや茨がいて、ぼくは多分幸せだった。戦争も喧嘩も起こらない平和な街で、ぼくは何不自由なく幸福に過ごしていたと思う。
だからハロウィンの夜、どうして彼女を拾ってしまったのか、自分でもいまいちわからなかった。単なる興味と言えばそうだけど、わざわざ新しく拾う必要なんてなかったはず。
それに本当は、つむぎくんにでも頼めば今すぐ彼女を元の世界に帰してあげられる。それなのにぼくはずっと彼女を傍に置いている。家族としての情が湧いたんだろうか。ジュンくんみたいに。ううん、ジュンくんと彼女はどこか違う。
ふと、彼女に一人で留守番をさせたときのことを思い出した。英智くんに犯されたんじゃないかと思ったときのぼくは、驚くほど冷静じゃなかった。胸がざわざわして、いっそあの細く白いのどを引き裂いてしまいたいとさえ思った。ぼくのものにならないのなら、誰のものにもしたくない。多分、きっとこれは、認めたくないけれど醜い嫉妬心と独占欲だ。
「日和さん、……日和さん?」
「わぁ!? あ、帰ったんだね、おかえり。あれっ何かいい匂いがするね?」
リビングのソファでぼんやり物思いに耽っていると、後ろから声をかけられた。綺麗におめかしした彼女は、今日ひとりで街へ買い物に行くと言っていたはずだけど、もう帰ってきちゃったみたいだ。
「キッシュ、買って帰ってきたんです。……ジュンくんは?」
「ジュンくんならお友達と遊びに行ってるね。二人で食べちゃおっか」
「はい」
キッシュをお皿にうつして、彼女は丁寧に紅茶まで入れてくれた。せっかくだからとバルコニーに移動して、外のおひさまを浴びながらティータイムにすることになった。
柔らかな日差しを受けて、彼女はぼくの目の前で幸せそうに笑う。そのとき不意に気づいてしまった。ぼくがどうしてこんなにも彼女に固執してしまっているのか。
「ねぇ――きみは、お家へ帰りたい?」
「……えっ?」
「ぼくは……ぼくは帰したくないね。このままずっと、ずぅっときみがここにいてくれたらって……きみにはちゃんと帰る場所があるのにね」
熱い紅茶を口に含む。彼女は、少し困ったような顔をしていた。困らせてしまうのはわかっていたけれど、それでも何も言わずに帰してしまうのも、留まらせるのも良くないと思った。
「日和さん。少し、私の話をしてもいいですか?」
「うん。聞かせて」
「……私の母は、若い頃、父と駆け落ちしたそうです。小さい頃から何遍も何遍も、家のことなんか気にせずに好きな人と恋をして結婚しなさいって、言われてきました」
「ふぅん、素敵なお母様だね」
彼女は紅茶にもキッシュにも手をつけず、微笑みを浮かべながら話を続ける。
「はい。あなたの人生はあなたのものだから、自分で納得のいく人生を歩みなさい……って。だから私は、ちゃんと納得できる答えを出したいです。そのために、日和さん。貴方のことがもっと知りたい。もう少しだけでもいいんです、貴方を知る時間がほしい」
真剣な眼差しはきらきらと宝石みたいに輝いて見えた。帰りたい、帰してくれと言われるんじゃないかと思っていた。だってぼくは勝手に彼女の帰り道を閉ざして鳥かごにいれてしまったのだから。
それなのに、どうしてきみはそんなに綺麗な目でぼくを見るんだろうね。きみがそんなに純粋で綺麗だから、ぼくもきみを手放したくないって思っちゃうんだよ。
「いいよ。ぼくのこと、全部教えてあげる」
ジュンくんは、彼がまだ子どもだった頃、雨の日の森の中で拾った。宝石みたいな瞳がきれいだと思った。拾い上げて綺麗にしてやれば、ジュンくんはぼくが思っていたよりずっと輝きを放つようになった。
凪砂くんやジュンくんや茨がいて、ぼくは多分幸せだった。戦争も喧嘩も起こらない平和な街で、ぼくは何不自由なく幸福に過ごしていたと思う。
だからハロウィンの夜、どうして彼女を拾ってしまったのか、自分でもいまいちわからなかった。単なる興味と言えばそうだけど、わざわざ新しく拾う必要なんてなかったはず。
それに本当は、つむぎくんにでも頼めば今すぐ彼女を元の世界に帰してあげられる。それなのにぼくはずっと彼女を傍に置いている。家族としての情が湧いたんだろうか。ジュンくんみたいに。ううん、ジュンくんと彼女はどこか違う。
ふと、彼女に一人で留守番をさせたときのことを思い出した。英智くんに犯されたんじゃないかと思ったときのぼくは、驚くほど冷静じゃなかった。胸がざわざわして、いっそあの細く白いのどを引き裂いてしまいたいとさえ思った。ぼくのものにならないのなら、誰のものにもしたくない。多分、きっとこれは、認めたくないけれど醜い嫉妬心と独占欲だ。
「日和さん、……日和さん?」
「わぁ!? あ、帰ったんだね、おかえり。あれっ何かいい匂いがするね?」
リビングのソファでぼんやり物思いに耽っていると、後ろから声をかけられた。綺麗におめかしした彼女は、今日ひとりで街へ買い物に行くと言っていたはずだけど、もう帰ってきちゃったみたいだ。
「キッシュ、買って帰ってきたんです。……ジュンくんは?」
「ジュンくんならお友達と遊びに行ってるね。二人で食べちゃおっか」
「はい」
キッシュをお皿にうつして、彼女は丁寧に紅茶まで入れてくれた。せっかくだからとバルコニーに移動して、外のおひさまを浴びながらティータイムにすることになった。
柔らかな日差しを受けて、彼女はぼくの目の前で幸せそうに笑う。そのとき不意に気づいてしまった。ぼくがどうしてこんなにも彼女に固執してしまっているのか。
「ねぇ――きみは、お家へ帰りたい?」
「……えっ?」
「ぼくは……ぼくは帰したくないね。このままずっと、ずぅっときみがここにいてくれたらって……きみにはちゃんと帰る場所があるのにね」
熱い紅茶を口に含む。彼女は、少し困ったような顔をしていた。困らせてしまうのはわかっていたけれど、それでも何も言わずに帰してしまうのも、留まらせるのも良くないと思った。
「日和さん。少し、私の話をしてもいいですか?」
「うん。聞かせて」
「……私の母は、若い頃、父と駆け落ちしたそうです。小さい頃から何遍も何遍も、家のことなんか気にせずに好きな人と恋をして結婚しなさいって、言われてきました」
「ふぅん、素敵なお母様だね」
彼女は紅茶にもキッシュにも手をつけず、微笑みを浮かべながら話を続ける。
「はい。あなたの人生はあなたのものだから、自分で納得のいく人生を歩みなさい……って。だから私は、ちゃんと納得できる答えを出したいです。そのために、日和さん。貴方のことがもっと知りたい。もう少しだけでもいいんです、貴方を知る時間がほしい」
真剣な眼差しはきらきらと宝石みたいに輝いて見えた。帰りたい、帰してくれと言われるんじゃないかと思っていた。だってぼくは勝手に彼女の帰り道を閉ざして鳥かごにいれてしまったのだから。
それなのに、どうしてきみはそんなに綺麗な目でぼくを見るんだろうね。きみがそんなに純粋で綺麗だから、ぼくもきみを手放したくないって思っちゃうんだよ。
「いいよ。ぼくのこと、全部教えてあげる」