今でもたまに夢に見る。雲の上から見下ろしたモンスター世界の、あのおぞましいありようを。そしてぼくたちがこの手で吊るしあげてしまった、あの五人のモンスターたちのことを。



「日和くん、君の手を貸してほしい。世界を輝きへ導くために」

 そう言ってぼくと凪砂くんの手を取った英智くんは、つむぎくんも含めた大天使四人で下界へ降り立った。勝手に五奇人なんて名前でくくった五人のモンスターたちを順番に陥れ、敗れさせ、戦争を続けた末にようやく世界に光がさした。……ような気がした。

 ふと気がついたとき、ぼくの手は真っ赤に汚れていた。世界はきっと多少、以前より秩序を保つようになった。それでも自分の行ないを肯定できるほど、ぼくは盲目じゃなかった。

ちっとも綺麗じゃない羽根が嫌で、ぼくは凪砂くんの手を取り、白い羽根を捨てて悪魔へ姿を変えた。それからしばらくして、ぼくはジュンくんを拾って、凪砂くんは茨と出会った。



「……あの長い長い戦争で、ぼくたちはたくさん汚れてしまったし、傷つけてしまったね。過ぎてしまったことはもう取り返せないから、もうあんまり話題にしたくはないんだよね。できることなら楽しい話だけをしていたいし、今さら何を言ったって誰かが幸せになるわけじゃないからね」

 大まかな流れを説明して、ティーカップを持ち上げ紅茶を飲む。ちらりと向かいに座る彼女を見ると、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。

「えっ、どうして泣きそうなの?」
「ごめんなさい……、日和さんはいつも明るくて、いつも笑顔でいてくれるけど、でもたくさん辛い思いもしてきたんだなって思って……ほんとにごめんなさい、私が泣くのはおかしいのに」

彼女は誤魔化すように無理に笑って、涙がこぼれないよう目頭を抑えた。どうしてこの子はこんなにもやさしいんだろうね。身体を乗り出して、そっと彼女の頬に手を触れる。

「ほら、擦らないの。……きみには笑っていてほしいね。ぼく、最初こそ気まぐれできみを拾っちゃったけど……今はきみを心から愛しているし、このままそばにいてほしいと思ってるね」
「日和さん……」
「きみを愛してるからこそ、きみ自身に選んでほしいんだよね。……これからどうするのかを」

赤くなった目もとを撫でて、じっと視線を絡める。彼女は一度ごくりと息をのむと、しっかりぼくを見つめ返したまま小さな口を開いた。

「私は……ほんとは、決まってたんです。でも日和さんの話を聞いて、ちゃんと決心できました」

 彼女はそう言って、ぼくの手に自分の手を重ねた。柔らかくて温かい感触が伝わってくる。

「日和さん、私は貴方のそばにいたいです。いつもおひさまみたいに暖かくて優しい日和さんのことが、私は大好きです。日和さんのそばにさえいられるなら、私はほかに何を失っても構いません」
「…………ぼくを選ぶんだね。ふふ、ありがとう。でも安心してほしいね、ぼくを選ぶからにはきみに何ひとつ失わせない。きみの全部を愛で満たしてあげるからね」

華奢な体を壊してしまわないよう大切に抱き締めて、深く呼吸をする。ふたりきりのバルコニーには柔らかな陽光が降り注いでいた。

彼女の栗色の髪を透かすようなそれはまるで光でできたベールのように見えて、ぼくは誓いを立てるように彼女の横髪を耳にかけ、そのくちびるにキスをした。

 神さまなんていないこんな薄汚れた世界だけれど、きっとぼくたちは幸せになれる。どうかずっと、ひかりの降りそそぐ暖かな世界のなかで一緒に遊んでいようね。