「あの、あの……え〜と…………提案、なんですけど。嫌だったらいいんですけど、その……卒業したあとの春休み期間、一泊だけでいいので旅行とかしませんか……」

 ある日、卒業式も間近に控えたころのことだった。彼女は夕暮れの部室で突然そんな提案をしてきたのだ。あんまり真っ赤な顔で誘われたので、思わず逆に真顔になってしまう。

「……旅行自体は構わん、というかぜひ行きたいが。おぬしそんなにまっかっかになって……恋人と一泊するのがどういうことかわかっておるんじゃろ? 悪いが行けば我慢は出来ぬぞ、おぬしがそれでも良いと言うのなら喜んで同行しよう」

なるべく落ち着いて諭すようにそう言うと、彼女は恥ずかしそうに真っ赤になった頬を両手で隠して少し俯いてしまった。そして心做しかちょっと不機嫌そうな顔で拗ねたような声を出す。

「そのくらいわかってます、わかってるし、ちゃんと覚悟したうえで誘ってます……。私は朔間先輩とふたりきりで過ごしたいです、だめですか。はしたない?」
「も〜そんな言い方して! よちよち、可愛いのう……やっぱり今襲っちゃっても構わんかえ?」
「最悪」

俺が彼女に近づいてぎゅっと抱き締め頭を撫でると、彼女は照れるのを隠すためか顔に力を入れて嫌そうな顔をして見せた。それでも彼女の指先が俺の制服をちょこんと掴んでいるのに気付き、思わずニヤニヤしてしまう。

「ではどこに行こうかのう。観光名所とかにすると気が休まらんと思うので……我輩がツテを辿ったほうが良さそうじゃな。計画するのは我輩に任せてもらって構わんかえ?」
「はい、大丈夫です。あ、でも私そんなにお金に余裕が無いので……あんまり高級なのはやめてくださいね」
「くくく、善処しよう」
「え〜……」